どんなに優秀な経営者であっても、ひとりで解決できないことがあります。多くの『 重要な決断 』を迫られる今こそ、エグゼクティブには信頼できるコーチの存在が重要です。
本稿では、AMAのエグゼクティブコーチングが重要視するピープルマネジメントとは何か、経営者を支援するエグゼクティブコーチとは何かをAMAのエグゼクティブコーチである住友の視点から解説します。
講師プロフィール AMA最高顧問・エグゼクティブコーチ カリフォルニア州ウッドベリー大学経済学部卒。ニューメシコ州センチュリー大学MBA。日本経団連教育問題委員会委員。拓殖大学客員教授。 1985年 NCHコーポレーション オーペレーションズ・マネジャー 1988年 日本シィベルへグナー株式会社 常務取締役 2000年 マナテック・ジャパン株式会社 代表取締役社長 2002年よりマネジメント・コンサルタント/エグゼクティブコーチングを中核とする人材育成会社、株式会社ギングーの代表取締役社長 2003年よりAMAとの係わりが始まる。 |
「このリーダーについて行こう」という想いを社員に持たせることこそ、ピープル・マネジメントの核心
未曾有の災害がもたらした電力不足など一連の不安定要因と円高など経済混迷の状況下で、なお且つグローバルな視点で経営の舵取りを余儀なくされるエグゼクティブ。目の前の障害に対処しつつ、変化に即し、健全経営の成果を上げていくためには、マネジメントチームの頭脳だけで組織を動かしていくのではなく、「トータルコーチィングカンパニー」のコンセプトを軸にして、社員一人ひとりの知識・スキル・知恵を結集し、企業力を上げていく強いリーダーシップが求められます。
いかに人を効率よく管理し、モチベーションを上げ、一人当たりの生産性を高めるかで、会社の業績は一変します。言い換えればピープル・マネジメントが機能するか否かが非常に重要です。ピープル・マネジメントというと、多くの人は「人をどうやる気にさせて働かせるか」と考えるのではないでしょうか。これを突き詰めて考えていくと、「このリーダーについていこう」という心構えを社員全員に持たせることこそ、ピープル・マネジメントの核心だということに気づくでしょう。部下全員にこの心構えがあれば間違いなくトータル・パフォーマンスは上がります。つまり、「この人の夢を実現させるためにがんばろう」と思う気持ちを束ねることができれば、会社の業績は飛躍的にアップするはずです。
では、どうすれば、社員をリーダーであるあなたについていこうという気持ちにさせることができるのでしょうか?
悪い点を改め、心構えを変える。
自己を改める努力を行うと部下に宣言する。
そのくらいの意気と覚悟が必要。
まずは、あなた自身を磨き、心構えを変え、自分自身の「やる気」に火をつけることが先決なのです。ご自身を鏡に映してみてください。
目標を見失ってはいないか。自己否定やネガティブ思考というブレーキがかかっていないか。後ろ向きになったり、事なかれ主義に走っていないか。こうした点にひとつずつ向き合い、曇りを晴らしていくことが不可欠です。
もうひとつの重要な要素は、自分を過信していないか、自分自身の現状を分析・理解し、悪い点や弱点を改め、強い点はさらに強化して、心構えを変えること。この助けになるのが、部下の声を拾うという作業です。
あなたの問題点は何か、あなたにどう変わってほしいと思うかを率直に話してもらうのです。耳の痛いことを言われるかもしれません。しかし、彼らの声を客観的に受け入れ、自分の至らない点から目を逸らさず、「私は、みんなに言われたように変わる努力をすることに決めたよ」と自己を改めるコミットメントを部下に宣言する、そのくらいの意気と覚悟で経営に取り組んでこそ、本物のエグゼクティブといえるのではないでしょうか。
優良企業のエグゼクティブは、厳しいアセスメントで選ばれた人材ゆえ、有能で人間性にも優れている人がほとんどですが、ときにアカデミックな世界でキャリアを築いてきている人などの場合は、経営視点が足りず、健全なピープル・マネジメントができない、というケースもあります。
たとえば、「君のアイディアはとてもいいね」と認め、褒め、モチベーションを上げるのも成功するピープル・マネジメントのひとつの方法です。「何だ、まる一日かけて出てきたアイディアが、たったこれひとつなのか」と、頭ごなしに非難するのでは、デイモチベーションになってしまいます。自分以外の誰かがそのように怒られているのを見るだけで、周りのみんなも落ち込んだ気分になってしまうのではないでしょうか。
「人の心」無頓着な人に、部下は付いてこない。
あるエグゼクティブの例。
ごくまれに、自分が非常に有能なあまり自分以外の人間がすべて劣って見えてしまい、それだけでなく、そのことを隠さないで即、言動に移すというエグゼクティブもいます。
ある一流企業の専務取締役は、このタイプに属していました。きわめて営業能力が高く、一年先次期社長が約束されていました。しかし彼は、健全であるべきピープル・マネジメントの重要性に気づいていませんでした。セールスマンに対し、過酷なノルマを課し、達成しないと厳しい処遇を与え、未達成が続けば解雇するという仕組みを作っていたのです。業績の上がらない人を辞めさせて、代わりに新しくより優秀な人材を雇用するので、会社の業績は落ちたことはありません。彼は、会社の利益を維持向上させるためには、この手段しかないのだと固く信じ、全く「人の心」には無頓着のマネジメントを行っていました。
しかし、そのようなマネジメントに、人は長期的についてこられません。何よりこの会社のために頑張ろうというモチベーションは生まれてこないでしょう。このままの状態で彼が社長になったとしたら、多くの役員は辞めてしまうだろうと思われるほど、彼には人望もありませんでした。
エグゼクティブ・コーチィング(EC)のセッションの第一回目、はじめて会ったときの彼は、「ECなんて役に立つのですか?だって住友さんは、我々の業界のことは何も知らないでしょう?そんな貴方がどうして私にコーチィングができるのですか?」と、そっぽを向きながら、横柄な態度で接したのです。
この発言に対して私は、「私はあなたの業界の専門知識を教えに来たわけはありません。経営についてのECを行うようにとあなたの上司である社長に言われてきています。そのECが役に立たない、と言われるなら、いまから私は社長室へ行って、あなたはECは役に立たないと言われる、そこで、やる気がない人にコーチィングしても御社の貴重な財源が浪費されるだけなので、この際、やめさせてもらいたい、と伝えてきます」と返答しました。
すると彼は「ちょっと待ってください!」と言って、急に態度を改めたのです。
「あなたは社長になることを目標にしておられるのでしょう?だったら貴方自身の心構えを変えなければ目的は達成できない。そのためのECを受講するようにと社長は言っておられるのですよ」私は静かに彼に伝えました。こうして、彼とのECセッションが始まりました。
マインドの変化がマネジメントスタイルを変えた
優秀な彼は、セッションがはじまってすぐに、ECは自分にとって必要不
可欠なプログラムだと理解したようでした。もっと部下に優しく、暖かく、怒らないで励まして、全員が自分のところに自発的に集まってくるようにしなければ、俺は社長になれないのだな、と察知したのでしょう。つまり、マインドセットを刷新することは、社長になるための手段だと彼は理解したのです。
徐々に、彼は私のグローバルマネジメント経験に基づいたECを有益なものだと理解するようになりました。開始してから一か月も経ったころから、彼は私をエレベーターホールまで見送りに来てくれるなど、明らかに態度に変化が現れたのです。何より、コーチィング・カンバセーション(コーチィとの対話)の際に、彼の表情に笑顔が見られるようになりました。マインドの変化によって、彼はマネジメントスタイルを大きく改めました。
社員にもよい効果が顕著に表れるようになりました。現在見事に社長に昇進した彼には、ピープル・マネジメントに卓越した能力を発揮できる一流の経営者としての太鼓判を押すことができます。こうしたドラマティックな変化が、ECの持つ醍醐味です。
エグゼクティブコーチは、コーチィの持つ潜在能力と将来の可能性を信じ、コーチィの応援団長として誠心誠意、心から支援する
AMAのECはすべて、受講される人(コーチィ)に対して、その都度内容が変わるテーラーメイド・プログラムにより実施されます。仕事の本質、内容や背景、戦略や問題点、そしてゴールなどそれぞれのコーチィで異なる状況に、同じお仕着せの既製品プログラムを提供しても効果は得られるわけがありません。
コーチィの持つ潜在能力と将来の可能性を信じ、断定的思考を排除し、成長のプロセスを正しく、コーチはコーチィの応援団長として誠心誠意、心から支援するのがECのあり方であると確信しています。そのコア・バリューを理解し、自分や部下の成長を心から願っている積極的な姿勢を持ったエグゼクティブがECを受講すれば、結果は最大公約数的な効果を生むと言えるでしょう。
志の高い経営者層は、コーチのヒントを貪欲に受け止め、目標を達成するために一生懸命に考え、その結果をコーチに伝えます。そこから更なる対話が派生して、次々と難問や課題が分析・精査され、画期的なソリューションが生まれるからこそECは有効なのです。
全社をあげて知恵を絞った結果を、強いコミットメントと責任感に基づいたリーダーシップで
トップが引っ張り、実行に移していくダイナミズムを想像してみてください。経済環境や景気のせいにして物事を先延ばしするのではなく、光のあたる次のステージに行くために全員が知恵を絞り、白刃の矢の中を潜り抜け、前へ進むことが重要であることに気がつかれるはずです。
自分自身で「ひらめいた」ことが大事。自分で決めたことは、誰もが一生懸命に実行し、結果を出そうと最大の努力を惜しまないものだから。
エクゼクティブが身に付けたECのノウハウは、彼らの部下へのピープル・マネジメントに対しても、そのまま応用することができます。対話を通じて部下の中にある答えや能力を最大限に引き出し、その内容を分析・体系化して、"気づき"につながるように会話を発展させて自己啓発を促します。これを繰り返すうちに、あるときから部下は自分で解決策がひらめくようになります。 上司は、その解決策を褒め、承認してあげることが肝要なのです。
この、「自分自身でひらめく」というプロセスが非常に重要です。なぜなら、自分で考えたことには、その人自身の強い思い入れがあるゆえに、これが"Firm Determination(確固たる決意)"となり、実行に対しコミットメントを持つことに直結するからです。当然の成り行きですが、自分で決めたことは、誰もが一生懸命に実行し、結果を出そうと最大の努力を惜しみません。
そこには、漲る気力と旺盛な責任感が生まれ、不可能だと思われていた巨大な岩さえも動かすことができるようになるのです。
- 交友録 -

2011年7月、コーチングの神様として有名なマーシャル・ゴールドスミス氏と会談の機会を得ました。これは、彼がアメリカのAMA本社から「過去80年間、世界のマネジメント分野において、もっとも偉大な思想家・リーダー50名」に選ばれたことが縁になったのです。
会談の要旨は、エグゼクテイブ・コーチング実践上での日米の文化的差異や、有効性、その方法論や将来性に関した多岐に亙るものでした。
お互いに完全に意見の一致を見た部分は、コーチィとなる会社の幹部は、全員「なくて七癖」を持っている。そこで、ネガテイブな癖をすべてテーブルの上に置いて、これを無くすように仕向けると同時に、ポジティブな癖を更に伸ばす両面作戦を同時にコーチングすれば、本人の成長は元より、これが調和のとれた人間関係を促進し、企業としての生産性の進捗、組織力の強化に繋がるという信念と自信でした。
さて、皆さんはECの魅力と有用性をどのように捉えられたでしょうか。是非ご意見をお聞かせ下さい。