AMA講師インタビュー日本人が論理的思考力を高めるためには?

日本人が論理的思考力を高めるためには?

ビジネスの世界だけでなく、世の中全体が多様化する環境の中で、論理的に考えること、そしてあふれる情報の中から物事の本質を捉える力が重要視されるようになってきました。AMAのプログラムラインアップの中でもロジカル・クリティカルシンキングスキルの需要は確実に増えてきています。今回はこの分野において数々の研修実績と開発経験を持つAMA講師 上田禎氏にグローバルビジネスにおける経験と、日本人が論理的思考に弱い理由、これを高める秘訣などについてを伺いました。

講師プロフィール

上田 禎(うえだ ただし) AMA講師:国内大手コンピュータメーカーで海外向けマーケティング業務、アジア地域を中心 とした海外現地法人支援業務のほか、システムを中心としたコンサルティング業務に10年間従事。その後、能力開発・人材教育会社において、個人を 対象としたセミナーの講師やパソコンスクール経営・指導者を務めた。
2001年からAMAのシステム責任者としてのサポートの一方で、研修プログラムの開発支援、さらに講師として活躍。業務分析から問題提起し、シ ステムの構築、普及運用までを行うシステムアナリストの経験から、ロジカルに考え、伝達する能力を要する領域に強い。

「研修は実務に活かせて初めて意味がある」の信条のもと、自らの体験を交えたファシリテーションはわかりやすいとの評判が高い。専門分野は、クリティカルシンキング、ロジカルコミュニケーション、ビジネスプレゼンテーション、マーケティング、マネジメント等、多岐にわたる。



■上田講師が担当する公開セミナーはこちら↓
ロジカルコミュニケーション - 論理的に聞き・考え・話す  6/19-20開催 11/12-13開催
マネジメントの基礎  7/25-26開催
クリティカルシンキング - 思い込みを排除し、本質を見抜く  10/10開催
 

―ご自身のグローバルビジネス経験を教えてください。

新卒で日本電気株式会社(現在のNEC)に入社後、3年間海外向けマーケティング業務に従事したのが私にとって最初のグローバルビジネス経験です。
当時、多くのグローバル企業では、採用の段階で国際人員、国内人員に分かれていて、私は国際人員として採用されました。
配属後は、中南米から中近東、アジア諸国等、先進国以外の国のマーケティング担当部署で、パーソナルコンピューターとオフィスコンピューターの広告と販売促進の業務に携わりました。

3年間マーケティング業務を行った後は、システムアナリストを担当しました。この仕事は言わば、SEの上級版のようなもので、海外現地法人のコンピューター管理や、東京と現地オフィスのシステムの連結等を主に行いました。ここでの仕事は、前部署よりも更に、海外とのやり取りが多い業務でした。

―海外の人材と協働する上で、コミュニケーションで困った経験はありますか?又、気をつけていたことがあれば教えて下さい

サブイメージ

システムアナリスト時代は、海外出張に行く機会が多くありましたから、そこで様々なカルチャーギャップを経験しました。
出張の主な目的は、現地法人立ち上げの際のインフラ整備でしたが、コスト負担の割り当てについて、会社が決めた方針を現地スタッフに納得させることも私の重要な役割でした。
私は会社から派遣されたわけですから、当然会社の方針をそのまま現地スタッフに伝えます。すると、現地スタッフは「会社の方針と言うけれど、君自身の考えはどうなの?」と、私個人の意見を執拗に求めてくるのです。 私はそれまで、会社で決められたことは当たり前のように鵜呑みにして、私自身の意見は必要ないという観念がありましたから、彼らのこの反応には驚きました。
その後、同じようなカルチャーギャップは他の国でもおき、海外では自分の意見をしっかりと持ち、その上で相手を説得しないと納得させることは出来ないのだということを悟りました。

又、異文化に対して、いかに自分が固定観念を持っていたかも思い知らされました。
出張で現地タイ人と交渉を行ったとき、私は当然の如く、相手にタイ人特有の性格を思い描きました。ところが彼は、アメリカで教育を受けていたため、タイ人というよりは寧ろ、アメリカ人に近い性格の持ち主だった、ということがあります。
又ある時は、日本で教育を受け、日本人の感覚を持っていた台湾人とも交渉を行ったこともありました。
マレーシア人は何系(インド系、中国系、マレー系)かで、同じ国の出身であっても性格が大きく異なります。
"国"ではなく"人"で相手を判断する大切さを学んだ経験です。

最後に韓国の話をすると、当時NECは三星物産(現在のサムスン電子)に技術提供を行っており、私の業務においても韓国とのやり取りが頻繁にありました。
そんな折、反対したにも関わらず、三星物産の課長が突然来日してしまったことがあります。 成田空港からかけてきた彼の電話で来日を知った私達は大慌て。なぜなら、韓国は当時から競争社会が激しく、社費で出張に行ったにも関わらず、手ぶらで帰ろうものなら、間違いなく彼の首は飛んでしまうからです。彼を首にするわけにいかないので、私達は社内中を駆け回り、価格交渉を行いました。 なんとか"手土産"を持たせて送りだした時には安堵したものです。

これも又、国によるビジネス文化の違いを痛感した体験でした。

―日本人は論理的思考に弱いと言われていますが、要因は何だと思われますか?又、論理的思考を高めるために、どのような訓練を行えば良いでしょうか? サブイメージ

要因は大きく分けて2つあると思います。
1つ目は文化。そして2つ目は教育です。

日本はこれまで、単一文化でした。
皆が共通の文化の中で生きていたため、全てを言わなくてもお互いを察し合える環境にあったのです。こうしたハイコンテクスト文化は、それほど高い言語力を必要としないため、論理的思考力や、説得力などが極端に乏しくなります。

対して多民族国家であるアメリカなどの欧米諸国は、多様な価値観が混在するため、誰が聞いても分りやすい言語、つまりローコンテクストでのコミュニケーションが求められます。 そのため、子供の教育から、論理的思考を高める訓練がされているのです。
日本人でも稀に論理的な人がいます。同じような教育を受けてきているにも関わらず、この違いがどこにあるかといえば、親の育て方なのだと思います。子供の頃、子供がすることに対して「ダメよ」で済ませる親と、その理由を添えて教える親とでは、子供の論理性に違いが出てきます。たと えば、私が知るあるご家庭では、その母親がローコンテクストな方でした。ですからその子供に「ダメだよ、そんなことしたら」と叱れば、「何で?」と理由を問われました。こちらは理由付けなしに行動することでも、その家庭では理由を言わないと行動に繋がりません。可愛げのない子供になるのではないかという意見もあるかもしれませんが、これからは子供の頃からこうした論理性を植えつける必要が高まってくるのだと思います。

論理的思考力を高めるためにはまず、クリティカルシンキング能力を高めることが第一です。 なぜそうなるのか?なぜそう思うのか?と原因を追究することで、思考を掘り下げたり、視点の変換を図り、結果、論理的能力の向上につながります。

―論理的思考を高めることで、私達の働き方はどのように変化すると思いますか?

論理的思考を高めると働き方が変わるというよりも、論理的思考を高めなくては生きていけない時代を迎えているのではないでしょうか。
新しい世代や、異文化に対応するためには、論理的思考は必要不可欠だと思います。

―最後に、人材を育成する立場となって、信条としていることがあれば教えてください。

NECに入社して最初の3年間、私は実に多くの挫折を味わいました。 言うならば、ゴツン、ゴツンと頭をぶつけながら日々の業務を行っていたのです。
海外業務に至ってもそうです。
国際人員として採用されたにもかかわらず、私は英語が不得意でした。 入社後は、英語が苦手な国際人員を集めた英語強化研修に参加させられたのですが、一緒に参加した同期は皆、英語が苦手でもイタリア語、中国語、フランス語など、別の言語に堪能でした。流暢なのは母国語である日本語のみだったのは、私ぐらいのものです。(笑)サブイメージ

でもだからこそ、私には出来ない人の気持ちが手に取るように分ります。異文化も、ネゴシエーションも、論理的コミュニケーションも出来ないところから始めているから、相手の気持ちが理解でき、的確なアドバイスが出来ます。

私の信条は、出来なかったときの自分を決して忘れないこと。
そして、自分で経験して納得したもの以外のことは伝えないことです。
相手の目線に立てるからこそ、共感が生まれ、信頼してもらえるのだと思っています。


(2011年11月取材)