
社会人一年生が大学を卒業して初めて就職した企業において、仕事内容が主として2つのタイプに分類できることを悟るまでに多くの時間はかからない。それは「戦略」と「遂行」。このため、企業で働く従業員も2つのタイプ――「立案者」と「遂行者」――に分けられる。
SCOTT GLATSTEIN 著
2つのタイプに分類できる従業員 --- 立案者と遂行者
これまでの通念:戦略は「立案者」、通常は経験豊富で実績が顕著なシニアエグゼクティブによって策定される。一方、その実行にあたるのが遂行者で、基本的には市場において実際の業務展開の責任を負っている、立案者以外の企業内の従業員をさす。
たしかに立案者は、成すべき事柄について議論を交わす。彼らは他のシニア・リーダーと戦略的オプションについて議論し、最終的に組織全体または特定部門の総合的な方向性を定める。しかし、自身が策定した戦略の遂行を懸念して時間を割くことはほとんどない。彼らも確かに年若の有望な新人だった頃は現場で戦略の遂行にあたっていたが、今は自分達のために戦略遂行に携わるスタッフ、つまり遂行者がいてくれるのだ。
遂行者はいわばポイントを稼ぐ実働部隊である。立案者はサイドラインから熱心に助言を与えコーチするが、コートの中で実際にゲームをするのは遂行者である。顧客と直接接して事業を遂行し、製品・サービスの設計、開発そして販売・提供に従事している。また、計画通りに物事が運ばない時には問題解決にあたる。突き詰めていくと、市場において組織の成功を推進するのは遂行者なのである。
アンバランス
にもかかわらず、多くの組織は遂行者よりも立案者を重用しているように見える。こうした企業においてトップへの道は、往々にして上手い戦略的なプレゼンテーションができるがどうかが鍵を握る。優秀で才能のある社員は、事業展開について論じる方が実際に事業の遂行に当たるよりも昇進のペースが速いことにすぐに気づくのだ。このような環境下においては、好成績を上げる遂行者は昇進する場合もあるが、実際に大仕事を任されるのは立案者である。これは、彼らが素晴らしい事業戦略を立てることによって知的能力を示し、これにシニア・マネージャーが深く印象づけられることが多いからである。
私がこのような関係に初めて気づいたのはまだ若い頃、ピルズベリー社(今は、ゼネラル・ミルズ社の一部)でゼネラル・マネージャーを務めていた頃である。非常に良い業績を達成した一年の締めくくりに、上司と年次人事考課のミーディングに臨んでいる時だ。私は、一年の成果を考えれば平均以上の評価が与えられるものとかなり自信を持っていた。しかし、上司はそのような考えではないことがすぐにわかった。以下はそのとき上司と私の間で交わされた会話である:
上司:
スコット、君はまさに優秀な企業戦士だね。チームを率いて業績をあげるコツを心得ている。君のチームは一年間で3,000万ドルの増益を記録した。これは本当に顕著な成果であり、部全体が計画を上回る成果を達成する上で大きく寄与した。君のように事業遂行にあたる者は他に誰もいない。
スコット:
よくわかりました。それでは、何故、私の勤務評定が同僚と比べて平均並みなのでしょうか。株主のために利益を達成することが我々に課された責任なのではないでしょうか。
上司:
勿論、利益をあげることは重要だよ。それは最終的なスコアカードであり、我々の賞与の大部分が利益目標に直接連動している所以でもある。だが、例えばジョー君のケースを考えて欲しい。ジョーが担当する製品ポートフォリオは計画目標には到達せず、実際のところこの一年間に損失を出した。だが、ジョーは、事業好転のためにとても素晴らしい戦略を練り上げた。ジョーは優秀な戦略立案者であり、我々の組織のトップに必要なのはまさにジョーのような人物だ。この点を踏まえて行動すれば、この社で平均以上の勤務評定が望めるよ。
上司との会話を通じて私にはひらめくものがあった。戦略的思考を重視する企業の姿勢は、長い時間を経てエグゼクティブレベルにおける戦略立案と市場における全社的な戦略遂行との間に深い亀裂を生む結果になったことを悟った。遂行ではなく、立案を重視するリーダーの姿勢を助長したのが報償制度だったのだ。しかしこれは、そもそも今に始まったことではなかったのではないのだろうか?現在の企業ヒエラルキーが誕生した時点から、そうだったのではないだろうか?
新しい方向性を定める前に、組織として現実的に何が実現可能なのかを認識することが事業の成功にとって重要な鍵となる。
結論
残念ながら、こうしたシステムが機能しないことを示す様々な証左がある。
"ビジョン"と"遂行"との間のズレ
1. 策定された戦略が現行組織の限界を認識できていない。
市場戦略は、組織の能力や資源に対して多大な要求を突きつける。確かに組織は時間とともにその能力を転換させていくことが可能であるが、その程度とペースには限界がある。新しい方向性を定める前に、組織として現実的に何が実現可能なのかを認識することが事業の成功にとって重要な鍵となる。
2. 戦略が自身の日々の業務にどのように当てはまるのか、従業員が理解していない。
企業の多くは従業員に対して、戦略の内容を明確、あるいは効果的に伝えていない。例えば世界規模でのサービスの提供が貴社の戦略であるなら、これが本当に意味するところは何であろうか。各店舗の営業人員、コールセンターの顧客サービス担当者、そして本社のマーケティング・マネージャーにとって、そうした戦略は何を意味するだろうか。「市場参入(go-to-market)」戦略が自身の日々の業務にどのような影響を及ぼすのか従業員がわかっていなければ、従業員が適切に戦略を遂行できる可能性は低いと言える。
3. 組織の業務システムまたはビジネスプロセスが戦略をサポートできていない。
日々の組織機能を変更せずに新たな戦略を遂行することは困難である。貴社の様々な課や部門間の業務フローは、貴社が狙う市場の意向をサポートするものになっているだろうか。また、貴社のシステムやツールは新しい戦略(ビジョン)のニーズを充足できるものだろうか。従来の能力や体制で新たな戦略を追求するのは、大失敗の原因であることを肝に銘じておく必要がある。
4. 業績評価指標や報酬制度が、戦略に連携していない。
貴社がサービスリーダーへと邁進する一方で、効率性の観点から顧客からの電話を短時間におさえる(これは顧客の問題を解決するという姿勢とは対立するもの)ことで顧客サービス担当者が評価されるような報酬制度が採用されているのであれば、業績評価指標と従業員へ通達された戦略との間にズレが生じている可能性がある。戦略や全体の目標という観点から見て、報酬制度や事業戦略は筋が通っているだろうか。また、貴社が設定している評価ツールが従業員自身を満足させるだけのもので、企業の重要な成功要因を評価・判断する基準にはなっていないだろうか。評価指標や報酬は、常に従業員に対して求められる具体的な行動――つまり、貴社の戦略的ビジョンをサポートする行動――に照準を合わせたものでなければならない。
これらの問題へのソリューションは、ストラテジー・アクティベーション®にある。ストラテジー・アクティベーションとは、成功する戦略遂行プログラムの策定において必要不可欠な要素――製品・サービス提供、人材、プロセスそしてツール――に、同時にフォーカスするよう意図されたビジネスプロセスを指す。ストラテジー・アクティベーションにおいては、貴社の包括的な戦略は市場や顧客に対して行われる約束事と認識される。製品やサービスに日々接する市場や顧客が、事業の最終的な成功を決定づけることになるのである。ストラテジー・アクティベーションは、戦略的意図と戦略遂行との間に横たわる溝の新たな懸け橋となるものであり、組織が実行したいことを把握し、実行方法を定義し、市場に対してなされた約束は従業員が一体となって、日々の顧客との接触を通じて実現されることを確実にするのだ。
Scott Glatstein氏は、IMPERATIVES, LLC社の社長として、効果的な市場戦略遂行により市場機会を記録的な利益に結び付けています。同氏の新刊は、"Strategy Activation: How to Turn Your Vision into Marketplace Success" として発行されています。
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