年をとれば、誰もが下り坂」と言われるもの。仮に一部の人材にそういうことがあっても、こうした見方はほとんどの場合は当てはまらないものなのだ
従業員の中には経営陣の期待にチャレンジ精神をかきたてられ、担当している仕事にやりがいを感じ、健康維持のために運動にも気を配り、機会があれば教育・研修への参加に積極的な者がいる一方、担当している仕事にやりがいはなく、上司のサポートもないと意気消沈し、健康維持のための運動をする気は毛頭なく、職場で提供される教育・研修に参加するメリットをほとんど感じない人もいる。
しかしながら、ある調査によれば、高齢層の従業員を対象に職場で教育・研修の機会を提供すれば、たとえやる気のない彼らも研修を受けてみようという気になる可能性があることを示唆している。
教育・研修は、仕事のあらゆる局面において個人のキャリアディベロップメントを手助けする機会を提供する。今日、研修の必要性を感じている高齢層従業員の多くは、将来を視野に入れた研修プログラムに過去何十年にも亘り投資してこなかった企業のいわば犠牲者である。そこで今回は、高齢層従業員のための公平な研修機会の確保をテーマとしよう。
高齢層従業員を対象としているとは言え、その構成は効果的な研修プログラムを策定する際に利用される原則に依拠している。そして、一般的に高齢層従業員にとって効果的な研修プログラムであるなら、全従業員にとって効果的なプログラムだと言える。
プログラムを策定する場合、第一に実施しなければならないのはニーズ分析である。組織内のどの部署において研修を必要としているのかを見極めるのである。
第二に、職務分析(ジョブ・アナリシス)を行い、研修プログラムの内容・構成を決定する。職務分析の結果は、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)としてまとめられ、仕事内容そして職務を遂行するにあたり必要とされる知識、スキル、そして能力が明記される。第三に、人物分析を行い、誰を教育・研修すべきかを見極める。これは人事考課、ならびに適切なテストを通じて実施される。
成人や高齢者を対象とする研修・再訓練に関する文献によれば、効果的な研修プログラムに必要な要素、研修プログラムの策定の際に考慮すべき点として7つあげられている。それは、モチベーション、プログラムの構成、受け入れやすさ、構成、時間、積極的な参加、そして学習戦略である。
モチベーション
高齢層従業員がすすんで研修を受けようと積極的な姿勢を見せることは多くはない。それゆえトレーナーは、彼らを対象とする場合には、いつも以上に彼らを励まし研修への参加を促す必要がある。彼らの場合、学びたいという意欲はあっても、失敗することへの恐れや若年層と比べて自分にはあまり価値がないという感情が邪魔していることがある。正式な学校教育を十分に受けていない人の場合、とりわけ自分を低く評価する傾向がある。モチベーションと自己概念は、研修への参加やその成果を左右する要因である。トレーナーは継続的に肯定的な評価を与えるとともに、研修の目的を思いださせることにより、彼らが抱く失敗に対する恐怖心や自分には価値がないという感情を和らげる手助けが可能である。またトレーナーは、参加者の上司や同僚からも研修に参加するよう、支援や奨励といった働きかけをする必要がある。
プログラムの構成
研修プログラムは徹底的な職務分析をした上で、職務に関連した内容でなければなりません。これにより、プログラムをどのような順番で進めていくべきか、流れを決める際に有益となるからです。また、次へ進む前に受講者が各タスクの基本的な内容を習得できる構成になっていれば、受講者の不安を軽減することができ、またトレーナーにしても、受講者に対して肯定的な評価を与えやすくなる。 効果的なアプローチの一つとしては、プログラムが先に進むほど難しくするという手がある。これは、滅密なタスク分析に基づくものでなければならない。習得して欲しい課題や題材は丁寧に紹介し、最初は理解しやすい簡単な側面から提示していく。基本的なスキルを習得した後に、より難解な部分を紹介することで、最終的に課題・題材をマスターできるようになる。これまでの研修の結果を見ると、こうしたアプローチをとることで高齢層従業員の習得力は向上しているということがわかる。タスク分析は、特にタスクが複雑な場合、研修プログラムの成否を左右する大きな要因となる。また、プログラムの構成を決めるにあたっては、個々の受講者によって習得に要する時間が異なる点も考慮に入れる必要がある。
受け入れやすさ
トレーナーは、(可能な場合)研修参加者のこれまでの知識や能力に基づいて研修プログラムを進めて行くと良い。研修の中で関連性のある、あるいは一般的な例を提示できれば、参加者の注意を引きつけ、ひいては研修の効果を高めることができる。時間
行動調査によれば、年齢がいくほど反応時間は遅くなり、また学習に要する時間は長くなる。したがって、高齢層従業員が対象の場合には、資料の提示はゆっくりしたペースで行い、自習時間や試験期間には多くの時間を割くことが大切である。十分な時間が与えられれば、彼らは若い従業員と同じように、あるいはそれ以上に良い成果を達成することができるのである。高齢層従業員にとって最適なのは、自分のペースで学習できる環境である。しかしトレーナーは、単に時間を多く与えれば良いというわけではなく、時間の効率的な利用法を指導することも必要である。
積極的な参加
受講者が高齢層の場合、講義形式や機械的な暗記形式よりも受講者が自ら積極的に参加・体験できる形式が望ましいと思われる。積極的な参加・体験形式を取れば、受講者の自信に繋がると同時に、余計なためらいや警戒心を減らすことができる。また、高齢層従業員の豊かな人生経験や実務経験は、グループ討論や集団研修の質を高めることにもなる。
学習戦略
学習戦略に関する研修はまだ新しく、急速に発展している分野である。
この分野が伸びているのは、研修を受けることが推奨されている一方で、その"方法"は提供されていないという事実と、成人は"学習戦略"の訓練を受けていないか、もしくは利用する機会がなく忘れてしまっている場合が多いからである。
学習戦略の例としては、リハーサル戦略のようなシンプルなものがまずあげられる。要するに、記憶すべき事柄の名称を繰り返して覚える方法である。逆に複雑なものとしては、担当する業務分野の格子作りや部門自体の立ち上げなどがある。また、従業員を動機付けする戦略の一例としては、コンピューターや数字に対する不安克服があげられよう。
キャリアを開発したいという想いやその行動を引き起こすのは、現在の雇用状況は在籍期間、キャリアステージ、本人の達成欲求や成長欲求と無関係ではない。また、停滞不安、自己のマーケタビリティ(市場価値)に対する認識、雇用市場の状態、そして機会との出会いも、意思決定に影響を及ぼす一因となる場合がある。
研修や再研修などキャリア目標に関わる決定は、個人の成長と自発性の向上に繋がる。自発性の向上により、将来のキャリア開発の目標をさらに高くコミットメントすることとなる場合がある。 ベビーブーマー世代は他の世代に比べて教育水準が高く、スキル維持のために勤労意欲が高く、才能があり、競争力を有している一団と言える。したがってマネージャーにとって、こうした経験豊かな従業員の存在を認識し、高齢層従業員を保持するために仕事内容、職務内容面における必要な変化に敏感であることが求められる。さらに、高齢層従業員の仕事の質をより高めるには、彼らのニーズに対応することが重要となる。したがって、彼らの学習を円滑に進められるかどうかトレーナーの手腕を問われるところであるが、同時にトレーナーにとっては取り組み甲斐のある面白い経験になるであろう。

上記は、出版元(American Management Associationの一部門であるAMACOM)の許可を得て、William J. Rothwell・Harvey Sterns・Diane Spokus・Joel Reas共著の『より長く働く: 高齢層従業員を管理・研修・保持する上での新たな戦略』(Ⓒ2007)からの抜粋です。
MWorld Fall, 2008, By WHILLIAM J. ROTHWELL, HARVEY STERNS, DIANE SPOKUS, AND JOEL REASER.----AMA抄訳
※M World は、米国AMAが四半期毎に発行する機関誌です。
M World の記事内容・コンセプトは、必ずしもAMAが提供する研修プログラムの内容とは一致しません。