ロバート・ゴードンが、オーストラリアに拠点を置く牛乳・付加価値乳製品会社、デアリー・ファーマーズ(Dairy Farmers)社のCEO兼代表取締役に就任した際、彼は新たな任務が朝飯前とはいかないものと承知していた。
HOWARD M. GUTTMAN著
絶えず変化し、競争が激しいオーストラリアの乳製品業界にあって、生産は落ち込み、国際的な生産者牛乳価格は未だかつてないほど急騰し、燃料コストは世界中で上昇し続けていました。 そうした外部環境に追い討ちをかける形で、会社の運営経費は持続不可能な状況にありました。必要のない製品拡大を図ったために、事態はあまりにも複雑な様相を呈していたのです。会社の各部門は、まるで独立したサイロのように、それぞれが業務にあたっていました。要するに、今や徹底的な変革が求められる状況だったのです。
水平思考組織の創出
まずゴードンが取り組んだのは、オーストラリア・デアリー・ファームズ社にとって短期的課題と長期に渡る課題の双方に対応していくには、どのような組織体制が一番望ましいのかを徹底的に考え抜くことでした。彼はこのように振り返っています。
「会社の現状を見直していくうちに、我々にとっての最善策は、-実際のところ、我々にとってはそれが唯一の方策だったのですが-水平思考体制を敷くことだと確信したのです。」
彼が口にした「水平思考体制を敷く」という点に関して、ゴードンの考えは非常に明解なものでした。
「私自身が考える水平思考組織とは、誰もがはっきりと定められた意思決定手順に従って業務を遂行する組織へと移行することで、そのような組織では自分たちの責任事項を理解した上で結果を認めることになります。つまり、実際の行動へ移すということなのですが、それはまた、実行・成果意識を持った労働者層があらゆるレベルに存在することでもあり、上からの指示を日長待っている組織や機能上の境界を飛び越えていくものではありません。要するに、機会やスキルを従業員に与えて、問題の解決と意志決定には誰の関与が必要なのかを判断させ、責任分掌を経た上で、従業員に決定事項を実施させるということなのです。」
ゴードンと彼が率いるチームのそうした水平思考ビジョンは、遂行能力の高いチームがあらゆるレベルに存在することで、組織としての思考能力や成果が増大する方向へと変わっていったのです。それにより、マーケット戦略は加速化され、成果を手にする機会も増え、取引や顧客へ意識を集中させ、物事を決定する際の「ハングタイム(時間)」も減ることになりました。
ゴードンが言うように、「サイロと化していた部門は、部門間の枠組を超えたビジネス・チームへと様変わりしたのです。各チームとも、それぞれの分野の収益性について責任を負っており、かなりの部分で自主的に業務運営を行っています。各部門から幹部経営陣に対して定期的に報告が上がる体制となっており、リソースの割り当てで重大な問題を抱えている場合や実質的な資金調達がさらに必要な際には、経営幹部が問題へ関与することになります。それ以外のことについては、ともに設定した戦略を実行する責任は彼ら自身にあり、これまでのところよくやっています。」
三年後、デアリー・ファーマーズ社は、劇的な転換を遂げることになりました。
製品ラインアップからは三分の一を超える品目を削減し、15ヶ所の生産施設と17ヶ所の流通拠点のうち4ヶ所を閉鎖し、さらに非中核事業を売却して、目を見張るほどのスリム化を達成したのです。同社は、参入している小売市場すべてにおいてトップの成長率を上げる形で2007年を終えることになりました。その結果、各部門の市場シェアについても改善が見られたのです。
水平思考体制への挑戦
水平思考リーダーシップモデルへの移行でもたらされる想定利益が大きなものである一方で、そうした取り組みにはとてつもない難題がつきまといます。
つまり、変化への恐れやイニシアティブの疲弊蔓延により、現状維持が魅力あるものに映るということです。
ポール・マイケルズは、マーズ株式会社(Mars Incorporated)の社長就任にあたり、より高い成長を達成し、より多額の財務収益を上げなければならない必要性を認識していました。
ところがいざ蓋を開けてみると、彼が直面したのは、市場で経験した時とまったく同じほどやっかいな内部組織上の難題だったのです。
マーズ社の経営トップはサイロ化状態にあり、口に出さない業務計画を数多く抱えていました。
役員メンバーも、チーム一丸となって業務にあたる利益性に目を向けることなく、自らの責任領域でうまく事を運ぶことだけが関心事だったのです。
ゴードンと同様に、マイケルズもまた、水平思考モデルが未来へ向けた最善策になるとの考えを持っていました。
水平思考ビジョンを自らの組織を通して押し進めるため、まず彼が手をつけたのは、ビジネスの問題に焦点をあてた変革への「火付け台(burning platform)」を設けることでした。
その後マイケルズは、彼のビジョンをマーズ社の中核的価値観へとつなぎ込んだのです。
マイケルズはこう説明しています。
「マーズ社には五つの指針原則があり、そのうちの一つは効率性なのですが、業務運営に関して言えば、最も効率性が高い手段は何と言っても遂行能力が高いチームを持つことなのです。遂行能力の高いチームを作り上げるプロセスを経なくても、最終的には同じ結果を手にすることもできるかもしれませんが、 そうした場合にはかなり長い時間を要することになり、その過程で誤りも数多く犯すことになるでしょう。ところが、このようなプロセスを活用すると、チームはすぐさま実のある話しを、しかもリアルタイムでするようになり、問題を抱えた場合でも手をこまねいているのではなく、実際に対処するようになるのです。
その影響力は、たちどころに現れます。従業員は、社内でキャリアアップしていくか身を引くかのどちらかになります。また問題の根幹がどこにあるのか、関係者は誰なのか、ビジネス形態を変えるために必要な対応とは何なのか、といったことが、すぐさま目で見てとれるようにもなるのです。このモデルを導入することで、そうした領域での進行度合を何年も早めることができます。」
マイケルズは、ここ何年にもわたり、水平思考組織という枠組の中で素晴らしいビジネスチームを作り上げてきました。 チームの団結化
マイケルズが、マーズ社での前職時代に、ブランド担当チームと経営陣トップを水平思考モデルへ移行させたことは、彼の同僚がよく知るところでした。
マイケルズは、これらのチームに、より多くの責任と権限を進んで与えたため、彼の新たなチームも、彼が企業価値を尊重し、そしてたしかな実績を築いていたことを認識していました。
変革への切迫感を醸成することのほかに、マイケルズが打ち出したソリューションとは、自分が率いるチームを「一致団結」させることでした。そのような対応は、遂行能力が高いチームで構成された水平思考組織への移行プロセスでは欠かせないステップとなります。
夢想家たるリーダーが創造者たるリーダーへと大変貌を遂げるのも、そうしたステップを通してのことなのです。
組織をしかるべき形で一致団結させると、各部署は連動して業務にあたり成果を達成します。組織の戦略から顧客へと向かう、洞察力の直線とでも言うべきものが存在してきます。
人材、財務、それに資金上の乏しいリソースをそのような洞察力の線に沿って有効に活用すると、価値はたちどころに、終始一貫して、しかも高いコスト効率で生み出され、さらにまた増えていくのです。
こうしたことで、一致団結した組織は恐ろしいまでに競争力をつけ、結果として遂行能力が高い存在となるのです。
一致団結したチームなくして、一致団結した組織など望むべくもありません。
組織としてその遂行レベルを引き上げるためには、各レベルにあるそれぞれのチームが、次に掲げる五つの主要領域で一致団結すること、つまり連動して対応することが肝要です:
1. ビジネス戦略
2. 戦略から生み出される商品
3. 個人・事業単位または機能レベルでの役割と責任
4. 意思決定と紛争解決の手順または基本原則
5. 取引先/対人関係
マーズ社におけるチーム団結
チーム団結とは、集団として物事を掘り下げて考え、再評価する機会です。
また、リーダーやその配下にあるチームにとっては、高度な業務遂行のための青写真を設定する機会でもあります。
マイケルズの事例を見ると、彼の率いるチームは、集中的に二日間を費やし白熱した議論を展開しています。その中で、達成すべきことは何なのか、誰が何に対して責任を負うのか、そしてどのような決定を下す権限を誰が握っているのかといったことを話し合ったのです。
議論に参加した者たちは、許し難い対人行動についてお互いに食って掛かりました。彼らの口から出てきたのは、情報共有の不十分さ、事後対応の欠如、他人への高圧的態度、一方的な意思決定、陰口、言い逃れなどでした。マイケルズは、自分のことを他のチームメンバーと同様に扱ってもらいたいのだと明言します。彼としては、直接フィードバックを受けることを望んでおり、コミットメントや成果に関して責任を負うことにこだわったのです。
二日間の議論が終わる頃までに、マイケルズのチームは、遂行能力の高い組織運営へ向けた道筋をしっかりと見据えていました。
対峙することになった事案の中には、かなりの苦痛を伴うものもあったのですが、一致団結して対応することで、チームはすぐさま彼のビジョンに取り込まれることになったとマイケルズは考えています。
マネージャーの中には、直ちに自分の部署へ戻り、トップチームの一致団結後、自らが率いるチームの一致団結に取り組んだ者もいました。
他の者たちは、より控えめな姿勢をとっていたものの、最終的にはそれぞれの業務遂行範囲でチーム・モデルを再現する価値に目を向けることになったのです。中には組織を離れていく者もいましたが、彼らには水平思考に対応する素養が備わっていなかったのです。
経営上層部は、権限を委譲されたチームで構成された水平思考組織というマイケルズの持論に異論はありませんでした。
彼の直属の部下たちは、成長と収益性のビジネスモデルを理解したのです。彼らが得心したのは、それだけではありません。一致団結の前でなければ、明らかにその後ということですが、マイケルズがなぜ水平思考体制を敷くことが進むべき最善の方向だと感じているのか飲み込めたのです。
もっとも、地方レベルで経営幹部を取り込むことは、かなり難を要するものです。それはマイケルズの考えるによると、地方は内向きのことばかりに目を向け、長期的なビジネス問題よりも日々の業務に関心があるからだということでした。企業としての火付け台も、地方レベルでは必ずしもウケがよいものになるとは限らないのです。マイケルズのチームメンバーは、さまざまな問題に関してそれぞれの直属部下と対話の場を設けるようになります。それぞれの分野でシェアが伸びているのか、収益性はどれほどのものか、将来的な見通しはどうかといったことを話し合うためです。
そして次の論理的ステップと言えば、水平思考ソリューションの提案です。
マイケルズのチームは、今や水平思考で業務を進める効果のほどを認知していることもあり、その影響力を同僚へと伝え広めています。
彼らが目指すところとは何なのでしょうか。
それは、あらゆるレベルに素晴らしいチームが存在する、そのような構成に基づく素晴らしい組織づくりです。
リソースのレバレッジ効果
ゴードンやマイケルズのような遂行能力に長けた水平思考リーダーは、リソースにレバレッジをかける効果のほどを理解しています。
このような新しいリーダーシップ・アプローチでは、経営陣トップを初めとするすべてのチームが、ビジネスの成果を認めるミニ取締役会として事にあたるのです。
水平思考リーダーシップは、臆病な者を対象とはしていません。
力添えとなる効果の対象とは、「配分力」です。つまり、チームやそのメンバーの手に権限を委ねるということです-もっともそれには、条件が理にかない、基本原則がきちんと備わっており、また関係者が最大利益をもたらすよう十分な意識改革をしていることが前提となります。
また責任は、チームメンバーがお互いに持ち合い、チームリーダーは結果に責任を負うよう再定義されています。
さらに、チームのメンバー同士やリーダーに対して、直接、ガラス張りの形でフィードバックを行うことが奨励されています。
そして、自我の強さを身につけたリーダーには、複数のリーダーが存在するチームを育成することが求められているのです。
Howard M. Guttman は、高度遂行能力チームの育成、経営幹部コーチング、戦略・運営の整合化、それにプロジェクトの導入・実施を専門とする、ニュージャージー州、マウント・アーリントンに拠点を置く経営コンサルティング会社、Guttman Development Strategies, Inc. の社長です。彼の最新刊行書には、『偉大なるビジネス・チーム:傑出した成果の暗号解読』 ( Great Business Teams: Cracking the Code for Standout Performance)(ジョン・ワイリー&サンズ社、2008年)などがあります。