不況下の社員教育

  記事をPDFでダウンロードする

記事概要

経済的な苦境と先行き不透明な状況に直面した組織のリーダーが最初に起こす行動のひとつは、コストをベースとして収益性を調査し、即時にコスト節減効果が上がるような、実行しやすいアイデアばかりに飛び付こうとする。この「即効性」だけを重視した行動における典型的な例のひとつは、社員教育への投資の縮小である。だた、社員教育の活動を軒並み削ってしまうと、コストの節減とは比較にならないくらい甚大な悪影響が生じかねない。
数多くの企業が、過去数年にわたって人的資本を高業績の原動力としてきた。人材開発への注力を通じて示される、従業員を尊重する姿勢と成長機会は、その組織にとどまって業務に励もうと考える最大の理由だった。しかしそれが減ることは、従業員にとって「自分たちの貢献をもっと高く評価してくれる組織に移る潮時」ことを示す。

いわゆる「ソフトスキル」と呼ばれるような、コミュニケーション、リーダーシップ、チーム・ビルディング、信頼構築などが、現在の環境で最も重点的に取り組まなければならない課題である。こうした社員教育を、特に貴社のリーダーを対象としたものを削減してしまうと、従業員を団結させるリーダーの能力、そして現在のビジネス環境の絶え間なく変化する障害を克服していく能力が衰退していくだろう。
とはいえ、効果のないトレーニングや不必要なトレーニングへの投資に時間と資金が浪費されないように気を配らねばならない。コストが関わるすべての意思決定と同様、トレーニング活動のあり方も検証すべきなのである。そのためには、以下の3点を確認する必要がある。

1. 適切な領域だけを対象として、適切な人々に、適切なタイミングで提供しようとしているか?
2. 最大限の投資収益(ROI)を達成するのに適した方法論を使っているか?
3. 投資に対する責任と規律が明確になっているか?

ビジネスをとりまく環境は、今後も好機と懸案を行ったり来たりし続けるだろう。目的と対象を明確にした責任あるトレーニングによって、組織は、最大限の成功を収めるために必要なツールと能力を確実に手に入れることができるだろう。


By Dr. Todd Thomas ----AMA抄訳

予算の大半を少数のトレーニングのために集中投資する方が、的外れの分野に少しずつ資金をかけるよりもはるかに効果的である

経済的な苦境と先行き不透明な状況に直面した組織のリーダーが最初に起こす行動のひとつは、コストをベースとして収益性を調査することである。バランスシートにおける収入面の困難が一定の限度を超えてくると、通常、投資と利益のバランスを維持するためには、効率化の根源を新しく見つけ出さなければならない。
組織に対して、急速に変化する情勢が多大なストレスを生み出す恐れがあるため、組織の幹部や経営陣は即時にコスト節減効果が上がるような、実行しやすいアイデアばかりに飛び付こうとする傾向が強くなる。

困ったことに、切羽詰まって「スピード最優先」という気持ちが強まるほど、一見戦術的に見える意思決定に流れやすくなるが、そうした意思決定は結局のところ、長期的な影響力でみれば表向きなものにすぎない。「即効性」だけを重視した行動における典型的な例のひとつは、社員教育への投資の縮小である。経営陣にとっては比較的容易な意思決定であり、すぐに実施でき、しかもコストの面でも、ほぼ瞬時に効果を発揮してくれる。しかし具合の悪いことに、社員教育の活動を軒並み削ってしまうと、コストの節減とは比較にならないくらい甚大な悪影響が生じかねない。

従業員は組織への帰属意識を持ち、価値ある存在であると感じているか?

数多くの企業が、過去数年にわたって人的資本を高業績の原動力としてきた。心から、「従業員こそ当社の最大の資産である」と主張してきた。人事部門は「人材戦略」を策定し、適切なスキルセットの採用やコア・コンピテンシーの明確化、優秀な人材の継続的な開拓と育成を追求してきた。多くの従業員にとって、このような人材開発への注力を通じて示される、従業員を尊重する姿勢と成長機会は、その組織にとどまって業務に励もうと考える最大の理由となる。したがって、能力開発の機会を削減することは、従業員にとって「自分たちの貢献をもっと高く評価してくれる組織に移る潮時」を示す最初の兆候となることが多い。

社員教育は顧客維持に影響するか?

顧客と接触する前線にいる社員の教育を削減することも、即時的な悪影響を引き起こす。少なくとも理由は2つある。
第1に、顧客と接する従業員、特に、セールス活動や購入後のアフターサービスを通じて顧客と接触する従業員のスキルレベルは、顧客の長期的な維持を大きく左右する要因のひとつである。最も知識豊富で専門能力も高いセールス担当者は、良好な関係の維持こそがビジネスの柱であることをよく理解している。本当に顧客を重視しているカスタマーサービス担当の従業員は、市場は絶えず変化していること、その中で自分たちは学習曲線の最先端を走り続ける必要があることを知っている。そのようなスキルこそ、退化が許されない「人間的」なスキルなのである。

第2に、顧客もまた、財務的な困難にあるあなたの組織と同様のストレスを感じている。このような状況下ですぐに実行できる最善の対応策は、社員教育の縮小ではなく、顧客と接する従業員の社員教育を拡充することである。それによって、顧客担当者は新しい戦略とアプローチを利用して、わずか数ヵ月前にはさほど深刻だと思えなかった顧客の苦情にも適切に対処することが可能となるのである。

リーダーシップの有効性と変革管理

現在の経済危機は1930年代と対比して語られており、1970年代、あるいは1990年と比較されることさえあるが、それでも、現在の多くのリーダーや幹部は、グローバルな環境で生きていくことにおける多面的な課題を経験していない。
そうしたリーダーたちが協力して会社を先導し、不安定な21世紀という荒波にもまれた未知の海域を航行していかなければならないのだ。いわゆる「ソフトスキル」と呼ばれるような、コミュニケーション、リーダーシップ、チーム・ビルディング、信頼構築などが、現在の環境で最も重点的に取り組まなければならない課題である。そうした種類の社員教育を、特に貴社のリーダーを対象としたものを削減してしまうと、従業員を団結させるリーダーの能力、そして現在のビジネス環境の絶え間なく変化する障害を克服していく能力は衰退していくだろう。
ただし、これは「激動の時代にはトレーニング予算を聖域化すべきだ」とか「大目に見るべきだ」とか言っているのではない。むしろその逆であり、今こそ従来にも増して、効果のないトレーニングや不必要なトレーニングへの投資に時間と資金が浪費されないように気を配らなければならない。コストが関わるすべての意思決定と同様、トレーニング活動のあり方も検証すべきである。そこで、以下の3点を確認する必要がある。

1. 適切な領域だけを対象として、適切な人々に、適切なタイミングで提供しようとしているか?
2. 最大限の投資収益(ROI)を達成するのに適した方法論を使っているか?
3. 投資に対する責任と規律が明確になっているか?

今できることは何か?

適切な領域のみを対象として、適切な人々に、適切なタイミングで提供する
トレーニングは、 (a) 会社の主要なビジネス目標とイニシアティブ、(b) 顧客のニーズと期待、(c) 重要な競争プロセス、そして、(d) 従業員の成果達成能力と仕事への意欲、という事柄と明示的に結び付いているべきである。このような結び付きは、単に技術やスキルを中心としてトレーニングだけでは生まれにくい。重要なのは、リーダーが組織内の人々の関心を効果的に喚起し、重要な変革のメッセージを伝達し、全社規模で信頼を確立することである。

最大のROIを達成するのに適した方法論を使用する
あらゆる領域でコストを重視しているリーダーであれば、部下をワークショップに出席させるために年中、全国あるいは全世界に出張させたいとは思わないだろう。また、たとえ会社の拠点が1ヵ所にまとまっていたとしても、従来のワークショップ型トレーニングでは、困難が伴うことが多い。なぜなら、顧客や部下とともに過ごす時間が減るからだ。それでも、対話の必要があるときや、お互いの人的交流から学ぶことができるようなテーマを研修で扱う場合は、ワークショップに参加する時間を確保するべきである。それに伴うマイナス面での影響は、人の動きに配慮した賢明な判断を通じて相殺することができる。たとえば中間地点でミーティングを開くことやリーダーと従業員の出張が必要となる他の用件とトレーニングを関連付けること、などである。

また、トレーニングを提供する方法として新しいアプローチに注目することも大切だ。
ウェブキャスト、ポッドキャスト、オンライン・トレーニング、そしてジャスト・イン・タイム方式のDVD/CDトレーニングはいずれも、具体的な要望や必要性に対してタイムリーに対処する目的で使用すれば、高い費用対効果が得られる手法である。複数のアプローチを併用することで、それぞれのトレーニング予算を最大限に活かすことが可能となる。

投資に対する責任と規律を維持する
予算の大半を少数のトレーニングのために集中投資する方が、数多くの散漫なテーマに小額の資金を細かく分けるよりもはるかに効果的である。特に状況が厳しい時期においては、経営陣はどの領域が会社のビジネスにとって最も重要であるかを厳密に判断することに時間を割くべきであり、限定された、少数の領域で十分なトレーニングを提供すべきである。
さらに言えば、皆さんの組織は今、従来以上にマーケティング・スタッフのスキルを高める必要があるのではないか。ひょっとすると、トレーニングのための第一の対象は顧客サービスであるべきかもしれない。少数の主要領域に集中することは、トレーニング投資からのリターンを最大化することにつながるだけでなく、最も重要な優先課題がどこに存在するのかを組織に伝達するメッセージにもなる。たとえば、プロセス・コストを削減しながら、顧客サービス関連のトレーニングへの投資を維持(または増額)していれば、顧客満足のために組織が全力投球していることを、誰でも簡単に理解できるだろう。明確なメッセージを社内に発信することの効果は絶大である。

対象を絞り込んだ責任あるトレーニング
ビジネスをとりまく環境は、今後も好機と懸案を行ったり来たりし続けるだろう。今日のリーダーの真の課題は、「現在の情勢を単に『生き延びる』だけでは不十分だ。それ以上の何かを実行しなければならない」と肝に銘じることである。つまり、将来、この苦境を切り抜けた時点で、現状よりも確固とした競争力の高い立場を占めている必要があるのだ。対象を絞り込んだ責任あるトレーニングによって、組織は、最大限の成功を収めるために必要なツールと能力を確実に手に入れることができるだろう。

※Todd Thomas博士は、『Leading in a Flat World: How Good Leaders Become Greatly Valued in the Global Age』の著者、IMPACT Consulting and Development社の創立者。詳細については、www.ImpactSuccess.com もしくは、todd@impactsuccess.com宛にお問い合わせください。
※M World は、米国AMAが四半期毎に発行する機関誌です。
※M World の記事内容・コンセプトは、必ずしもAMAが提供する研修プログラムの内容とは一致しません。