イノベーションを通じて再び繁栄の道へ

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By Thomas Koulopoulos ----AMA抄訳

皆さんは、米国政府がシティ(CITI)、AIG、GM、クライスラーといった企業の救済に何十億ドルも投じていることをどうお考えだろうか。いろいろなご意見があるだろうが、とにかく明らかなことがひとつだけある。それは、大企業は私たちの期待を裏切った、ということである。それなのに、私たちはその裏切りの張本人たちに数千億ドルものボーナスを恵んでいるというわけなのだ。

タイタニック号は、今、私たちの多くを乗せたまま沈没しようとしている...。それなのに、私たちはタイタニック号の建造者たちを褒め称えている...。そんな気がしてくることもある。
世界で最も明敏な人々が(と言っても、明敏さがMBAや博士号のような資格で測ることができれば、の話だが)最大級の金融機関を破綻させ、その最中に世界経済崩壊の引き金を引こうとしている今、皆さんは、この船が実際どこまで大きく航路を外れているのか、船を正しい方向に戻すように舵を切ることはそもそも可能なのかを問い直してもよいのではないだろうか。

新しいゲームのための新しいルール

数年前に、金融界の伝説的人物である巨大クレジットカード企業VISA Internationalの創立者であるDee Hock氏と話し合ったことを思い出す。氏はこう語った。「我々は皆、新しいゲームを古いルールでプレイしている。要するに、何が新しいルールなのかまだ分からないのだ」。
実際に、私たちは、周囲を取り巻く世界が100倍も複雑になったような気がしているのに、まだ同じ古いルールを使用してこの状況を切り抜けようとしているのだ。
では、そのような新しいルールの定義をどこから始めればよいのだろうか?
そう、私はまず告白から始めよう ― 「私はエコノミストではない」。もっとも、今回の場合、この事実はむしろ好都合かもしれない。実際に、全世界のエコノミストの頭脳、並み居るノーベル賞受賞者たちや、金融界のこの上ない明晰な知性が寄り集まっても、私たちを危害から守るにはほとんど無力だった。それどころか、かえって私たちを嵐の真っ只中に放り込んだように思える。私自身、これだけ賢い人々が集まっているのだから私たちの生活も投資も安全に守ってもらえるものに違いない、そう信じ切っていたのだ。
しかし、2つのことが起こって、ゲームのルールが変わってしまった。
第1に、金融のビジビリティ(「見える化」)が進み、他の経済圏の状況を見渡すことも、また深く掘り下げて調べることも、はるかに簡単になったことがある。ここで言っている「ビジビリティ」は、全世界の金融や財政の評価指標を閲覧する能力だけを意味するのではない。ブロゴスフィア(ブログ圏、すべてのブログとその繋がりを包含する総称)を通じて形成される世界規模での感傷やイメージをも含めて言っているのだ。そしてそれは、他のあらゆる要因と同じくらい経済の健全性に深く関係している。
そう、私たちが示す反応は、レミング(タビネズミ)と化した60億の世界人口が1つのグローバルな断崖絶壁に向かって突進するようなもの・・・。 この表現、当たらずといえども遠からずではないだろうか?
第2は、上記のように明敏なる人々の所業である。ちょっとした不良債権をより大規模で複雑な商品の中に紛れ込ませて次々と「臭い物に蓋」をし、証拠の隠滅を図ることを生業としていた人々、そして、自分自身にも周囲の人にも「複雑なものほど価値がある」と信じ込ませてきた人々は、それをこの上なくうまくやってのけたのだ。
売られていた金融商品は、どう見てもまったく理解不可能なものだった。ウォールストリートが召し抱えていたノーベル賞受賞者たちは、世界をどこまでも複雑に見せかけるための数式を書き、その複雑さに基づいて、宇宙には何か未知の法則が働いている、と私たちに信じ込ませた。その甲斐あって、立派な賞の受賞者たちの洞察は、私たちのような単細胞の死すべき人間からは近寄りがたいものであり続けたのである。私に言わせれば、そこまで壮大極まる洞察というものは、むしろ「妄想」とでも名づけた方がいいと思うのだが・・・そう言いつつも、私は身の程をわきまえている。――私はエコノミストではないのだから。

今、この時期にイノベーション?

では、どのようにしてイノベーションを語り始めればよいのか? 簡単なことだ。今は、大企業の強欲と、巨大組織の古臭い「イノベーション」(米国の自動車業界を考えてみよ)という枝葉が、森を暗く覆っている。その樹冠を切り払ってしまえば、求めていた日光が地面まで差し込んでくるだろう。その地面の上でこそ、起業家、中小企業、そして最終的にはイノベーションが育っていくのだ。
悪く受け取ってもらっては困る。私は、大企業にも金融機関にも喧嘩を売るつもりはない。そうした大企業や金融機関が経済の礎石だということも承知している。しかし大企業に、経済とイノベーションの未来はない。未来は、新しいアイデアを育てることにかかっている。もちろん、資本は成長と規模の拡大に欠かせないものだが、それが実際に新しいアイデアを生み出す助けになるとは思えない。信じられないだろうか? 

では、次の問いに答えて欲しい。「以下の企業すべてに共通するものは何か?」
― GE、オールステート保険(Allstate Insurance、米国最大の個人向け保険会社)、HP、バーガーキング、マクドナルド、ハイアット(Hyatt、ホテルチェーン)、フェデックス、マイクロソフト、アップルコンピューター、CNN、MTV、クリフバー(Cliff Bar、栄養食品)、メソッド(Method、自然指向の洗剤)。
正解は、いずれも不況や景気後退の中で創立された企業だ、ということである。なぜ、私たちは定期的な景気低迷がもたらすプラス面やチャンスに目を向ける姿勢を、こうも簡単に失ってしまうのだろうか? イノベーションの必要性は、経済が順調な時期にその頂点を迎えるように思えるかもしれないがむしろ逆で、好景気の方が無駄や複雑さ、くだらない発明を生み出すことが多い。pets.com(2000年に倒産したペット用品のネットショップ)の犬のイメージ・キャラクター、「ソックパペット」を思い出してみればよい。真の改革者を有象無象の集団から抜け出させるためには、2001年の経済危機が必要だったのである。
同じことが、現在の危機にも言える。金融サービスも不動産も保険も、実際に生み出す価値に比べてはるかに誇大な期待・熱狂と複雑さを作り出していた。真のイノベーションは、資本、資源、過剰を欠いていることから生まれる。だからこそ、今日の最大規模の企業が、最悪の経済情勢の中から出現しているのだ。また、明日のリーダーが今日の危機から出現すると心の底から信じられる理由もそこにある。
事実を言えば、イノベーションの誕生に最も適した場所とは、塹壕の中であり、オフィスに改造した空き部屋やガレージの中であり、元手は少なくてもアイデアは無限にあるような経済の片隅や間隙の中なのである。また、奇妙なことだが、それはリスクが最も的確に理解され、管理される場所でもある。
リスクマネジメントという発想は、起業家や中小企業のオーナーにとって抽象概念ではない。それは、夜、眠りに就くときも、朝、目覚めるときも決して頭から離れない現実なのだ。同じことが多くののアナリストや銀行家にも当てはまっていたなら、今の経済情勢はずいぶん違っていただろう。現実には、単にリスクを次の担当者に引き継いで、「もう自分の問題ではなくなった」と信じ切って安眠するような人が多かったのだが。
歴史的に見ても、小規模な企業は低迷期にある経済における最も革新的な部分である。また、まったく当然のことと言えるが、危機からの脱却を促す優れたものの考え方は、今回の危機を招いた物の考え方とは違ったものにならざるを得ない。しかし、絶望的な経済情勢の中で中小企業を経営しようとするなら、イノベーションは四六時中いつも頭を離れない脅迫観念となる。それは、状況が改善するまで予算から外しておけるような任意の投資なのではない。もし、すぐに再雇用される見込みが少ない状況で失業していたら、誰でも死に物狂いで何とかやりくりしようとするだろう。そしてその中で、必要に迫られて何か改革を実行するだろうが、それは、定職があって財布が一杯のときには決して想像できなかったようなものになるだろう。
それに加えて、急激に拡大するソーシャル・ネットワーキングの時代に生きることには、今までにはないようなメリットがある。人脈の形成や事業の構築が、かつてないほど簡単になるからだ。未来に向けて、さまざまなものを結び付けるその驚くべき力を活用していけば、最も革新的であった過去100年間にも比肩し得る時代を招き寄せることができるだろう。

国家レベルのイノベーション・ゾーン

では、何がその実現を妨げているのだろうか? それは、1つの小さな阻害要因である。つまり、「Corporate America」(大企業を中心とした米国の実業界)の救済と少なくとも同程度の真剣さで中小企業の支援に取り組むことが必要だ、ということである。

小規模な企業は効率的で、機敏で、革新的である。しかしある段階に達すると、それらの企業も構想から商業化へと転ずるために資本を必要とするようになる。そのため信用が途方もなく収縮し、住宅担保ローン(起業家にとって標準的な資金調達メカニズム)の融資額が下落し続ける中で、私たちは復興投資の注力先を中小企業に向けなおす必要があるのだ。
呆れたことに、不良資産救済プログラム(TARP: Troubled Assets Relief Program)は中小企業への直接支援をほとんど何も行っておらず、2009年米国復興再投資法(ARRA: American Recovery and Reinvestment Act of 2009)も、新しい中小企業を助成する以上のことはほとんど行っていない。たしかに、既存の中小企業にも追加的な救済策を若干提供してはいるが、到底十分であるとは言い難い。もっと必要なのだ。

中小企業を対象としたさまざまな奨励策と資金調達メカニズムから成り立つ、国家レベルのイノベーション・ゾーンを創設することを出発点とすることができる。そのポイントは、中小企業(特に、新興企業)のオーナーに、より大きなリスクを取ることを可能にする助成を提供することだろう。これには、連邦政府の保証がある中小企業融資の利用拡大や、中小企業への投資や雇用に対する大幅な税制優遇措置を含めることができる。その一部は、すでに現政権によって、中小企業による借入の保証率の引き上げという形で提案されている。

それでも、反対論者は、もし政府が保証によって銀行の後ろ盾になると、銀行は中小企業に対する不良債権を大量に抱えることになるだろう、と主張する。なるほど。それならば、救済措置の提供よりも、危機の芽を摘み取ることの方に、より多くの資金を投じてみようではないか。また、中小企業のオーナーへの優遇税制を拡大し、オーナーが自分自身の信用に基づいて新規事業の資金を調達できるようにすることも可能だろう。たとえば、新規事業に使用される住宅担保ローンの控除枠を28%に限定するのを止めて、新規事業を立ち上げるために使用される住宅担保ローンやその他の形態の借入に対する無条件の税額控除を提供すればよいではないか。私は、ある段階で事業資金を自力で調達する手段として住宅担保ローンに頼らなかった中小企業オーナーを少数しか知らない。

「イノベーションの必要性は、経済が順調な時期にその頂点を迎えるように思えるかもしれないが、事実は逆であり、好景気の方が、無駄、複雑さ、くだらない発明を生み出すことが多いのだ。」
今回の出来事は、おそらく、30歳以上の人々の大半にとって、生涯で遭遇する中で最大の金融危機になるだろう(30歳未満を除外して申し訳ないが、いずれその世代の番もやって来る)。しかし、良いこともある(楽観主義者は「カオス(混沌)」から出現する)。今回の危機は、この透明で、不確実で、均一で、互いに接続され、錯雑した新しい世界で事業を営む方法に、何らかの根源的な変革を引き起こす空前のチャンスでもあるのだ。私の確信は、いずれ今の状況を振り返ってみたとき、今後50年間の経済成長の基盤をどのように構築するかという点で、今の時期が根本的な転換点であったと見なされるだろう、ということである。だから、私はその役割の一端を担いたいと思うのだ。--いや、わくわくするではないか!

このような時期こそ、私たちをイノベーションに向けて促すもの、そして私たちを成長させるものに立ち戻るべきなのだ(もちろん、いつの時代もそうなのだが)。それは、起業家の精神と、新しい事業を築き上げる能力である。要するに、結論を言えば、この巨大なタイタニック号の乗客は、船を救うためのバケツを必要としていない。必要なのは、一人ひとりが安全に向かう独自の航路を見つけ出すための救命ボートだ。

おっと、しまった。「私はエコノミストではない」と言ったんだったっけ?

※Thomas Koulopoulosは、ボストンに拠点を置く経営シンクタンクThe Delphi Groupの社長および創立者であり、バブソン・カレッジ(Babson College)のビジネス・イノベーション・センター常任理事、およびサービス業界で最初のグローバルなイノベーション・ラボの1つの経営責任者も兼任する。8冊の著書があり、最新作の「The Innovation Zone」では、高業績企業がどのようにイノベーションの文化を構築し、維持しているかを論じている。
※M World は、米国AMAが四半期毎に発行する機関誌です。
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