MWORLDインタビュー ----AMA抄訳
不況が終焉を迎えても、経済情勢が落ち着く見込みは立たない。 波乱の時代が続くことを覚悟しよう。
革新的なカオティクス・マネジメント・システムについては、コトラーの著書『カオティクス ― 波乱の時代のマーケティングと経営』(東洋経済新報社) ― 原題 "Chaotics: The Business of Managing and Marketing in the Age of Turbulence"、AMACOM)で説明されている。本書は、GCS Business Capital LLCの創立者・社長・CEOのジョンA.キャスリオーネ(John A. Caslione)との共著である。
MWorldは、マーケティング戦略実行の世界最高の権威の1人であるコトラーと対談した。
コトラーは語る。
「波乱は、新たな『ノーマル』の状態と言ってもよいでしょう。ただ、定期的に繁栄と低迷が(長引く不況も含めて)突発的に生じ、常態が中断されるだけです。私たちは、あらゆる国で、あらゆる産業で、そしてほとんどの企業で、こうした定常化した波乱を経験することになるでしょう。さまざまな節目に予想外の変化が出現して、脅威と機会の両方が生み出されるでしょう。」
現在の経済危機について、コトラーは次のように続ける。
「今回の危機は、不況とその他の要因がミックスされています。その要因は、不況が去った後も私たちに付きまとい、頭を悩ませる種となるでしょう」。コトラーと共著者のキャスリオーネは、このような状況を「波乱の時代(The Age of Turbulence)」と呼ぶ。
波乱の時代
波乱は、企業が早期警報システムを構築する能力を試練にかける。システムが適切に機能しないと、企業は機会を見出して活用することも、弱点を探り出し最小限にとどめたり、除去することも不可能になるからだ。警報システムは、競合企業の動向、サプライヤーの行動と供給コスト、流通の変化、新しいテクノロジー、新しい立法と規制、そして社会の変化を監視する機能から成り立っている。企業は、市場環境の重大な変化の予兆となるような微弱なシグナルを監視し、より有利な態勢から準備と対処に取り掛かることが可能となる。
コトラーは、計画立案を改善するためには、早期警報システムのほかにもシナリオ・プランニングを追加することを提言している。未来は非常に不確実であり、特定の未来像に一定の蓋然性(がいぜんせい)(確かさ)を置くことさえできない。そこでコトラーは、企業が複数代替シナリオを用意するように、少なくとも想定される最悪の事態を考慮したシナリオを1つと、想定される最善の状況を盛り込んだシナリオを1つ作成するように提言している。経営者が、各々のシナリオにどのように対処するかを徹底的に考え抜く訓練を積むことで、自社の現在の事業経営モデルの限界に対する洞察を得ることができるはずである。さまざまな未来のあり方について考えることは、新たな保護対策の立案や、革新的な経営改善のアイデアの創出につながるのである。
シナリオ・プランニングのメリットの1つは、企業の現行戦略が通用するか否かを点検できることだ。企業は、「戦略の変曲点」に達したとき、すなわち、自社の戦略がもはや通用しなくなる地点に達したときに、それを察知できなければならない。戦略の改革を行わない企業は滅びる運命にある。ゼネラル・モーターズ(GM)は、その典型的な例である。GMは、15年前にすでに戦略が変曲点に到達していたことを認識できなかった。GMは、品質の高い日本車にも、日本企業が使用した革新的な生産方式(QCサークルや不良品ゼロ運動)にも、さらにGMの高い人件費や福利厚生費にも十分に注意を払わなかった。何の特長もない、差別化の計れない車を、漫然と生産し続けた。もしGMが早い段階で対策を講じ、ビジネス戦略を再設計していたら、現在のような苦境に立たされることはなかっただろう。
カオティクス・マネジメント・システムのもう1つの構成要素は、柔軟な予算編成機能である。コトラーは、もし不況が到来した場合にどの予算項目を削減するか、また逆に、業績が向上した場合にどの追加予算を要求するかを、企業内のあらゆる部門が事前に明確化しておくように要求する。部門内のあらゆる業務は等しく重要であるとか、いかなる削減も許さない、といった考えは、まったく無意味である。
コトラーは、逆境が生み出すチャンスを企業に気づかせたいと考え、ダライ・ラマの言葉を引用する。「楽な時代は敵だ。私たちを眠りに誘うから。逆境は友だ。私たちを目覚めさせるから」。ウォルマートのCEO、マイク・デュークは、「混乱は我々に新しいチャンスをもたらす」と述べている。
将来の波乱に対処するためにどのようなタイプの回復力が必要となるかについて、コトラーは、マネジメント・システムとマーケティング・システムの両方が即応力、耐久力、回復力を備えるように設計されている必要がある、と言い、特に以下のような能力を求めている。
その目的は、不測の混乱に直面したときに企業全体とその主要部門が速やかに決然と行動できるようなプロセスを通じて、長期的な事業存続能力を獲得することである。カオティクス・マネジメント・システムの導入は、そうした能力の実現に大きく貢献するのである。