「エレガント」なソリューション - マネジャーのためのデザイン思考

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by MATTHEW E. MAY----AMA抄訳

シンプルであることはデザインの世界で大きな意味を持つ。では、マネージャーにとっては何を意味しているだろうか?

デザイン(意匠)思考は、時代精神の最前線に急速に躍り出てきた発想法である。これは製品やサービスの練り直しだけでなく、日常業務やプロジェクトの見直しに関する新しい見方にもなり得るものだ。イノベーションとコラボレーションの文化を全社的な規模で生み出そうと努力している全世界のあらゆる企業が、デザイン会社を手本として成果を引き出そうとしている。

では、デザイン思考とは何か? ハーバート・サイモン(Herbert Simon)による1969年の著書『システムの科学』(原題: The Sciences of the Artificial)を引用して、ウィキペディア(英語版)はデザイン思考を次のように定義している。

『デザイン思考とは、より優れた将来的成果を求めて実行される実際的な創造的問題解決プロセスである。共感、創造性、合理性を結び付ける能力であり、ユーザー・ニーズを満たし、ビジネスの成功を促進するために不可欠な能力である。デザイン思考は、分析的思考とは異なり、アイデアの「積み上げ」に基づく創造的なプロセスである。』
この定義を前提とすると、デザイン思考は「見掛けをよくする」ことでないことは明白だ。デザイン思考とは、現実のビジネス上の問題を解決するために、創造性と論理性の融合に対して規律あるアプローチを組み込むことであり、それによって、従業員全員を、役職や肩書きに関係なく、一種のデザイナーへと変貌させることを目指すものだ。その意図の焦点は、仕事の成果物を受け取る側に立っているすべての人々のために、「エレガント」なソリューションを生み出すことである。
ここでいう「エレガンス」が目標とするのは、最小限の手段で最大限の効果を生み出すことである。これは捉えどころがない目標であるが、だからこそ稀にしか達成できず、またそれだけ希求される目標なのである。科学者、数学者、技術者は、極めて複雑な現象を驚くほど単純な方法で説明する理論を探し求めている。画家は、視覚的な力強さを伝えるために、構図の空白部分、つまり表現を否定した「地の部分」を利用する。音楽家や作曲家は、休符(静寂)を利用して、劇的な緊張を生み出す。日本の建築家や武道家は「渋み」を追求する。これは、うまく定義できない言葉であるが、非常に大まかな翻訳としては「巧まずして得られる洗練された効果」を意味する。医者は、患者の症状全体を説明する単一の診断を見つけ出すことを目指し、「オッカムの剃刀」の原理(同程度の妥当性なら単純な説明の方を採用すべきである、とする中世哲学の原理)に依拠して、分析結果を最も単純な説明まで削ぎ落とそうとしている。

ここでいう「エレガンス」が目標とするのは、最小限の手段で最大限の効果を生み出すことである。
これは捉えどころがない目標であるが、だからこそ稀にしか達成できず、またそれだけ希求される目標なのである。


今日のマネージャーがこの発想法の妥当性を理解するためには、価値を最適に付加する方法は、(逆説的ではあるが)主に、引き算のプロセスを通じて得られるという事実を悟ることが必要となる。これは、顧客と従業員のどちらにとっての価値でも同じである。Jim Collinsも、2003年に「USA Today」のエッセイで似たようなことを書いている。「偉大な芸術作品は、最終的な作品として残されたものだけから成り立つのではない。作品として残らなかったものも同じように役割を担っている。それは、適切でないものを破棄するための規律であり、数日の作業、または数年もの労力の結晶でさえ切り捨てるための規律である。それこそが、真に傑出した芸術家だけに特有の資質であり、理想的な作品を特徴付けるものなのだ。交響曲でも、小説でも、絵画でも、会社でも、あるいは最も重要なものとして、人の一生においても。すべてがそうなのである。」

ここで役に立つのが、3つの重要なデザイン原則、すなわち、「シンメトリー」、「誘惑」、「引き算」を適用するための枠組みを確立することである。なぜなら、これがエレガンスの必須要素であるからだ。


シンメトリー: 単純な規則は効果的な秩序を生み出す

ほとんどの人は、シンメトリー(均整、釣り合い)という言葉を、鏡に映したような対照性という意味で理解している。つまり、視覚的な左右対称性である。しかし、これは数多く存在するシンメトリーの種類の一例でしかない。実際、自然界のほとんどはシンメトリーを備えており、無限に反復されるパターンによって特徴付けられる。したがって、シンメトリーについて考える最適な方法は、ドイツの数学者ヘルマン・ワイル(Hermann Weyl)が1952年の画期的な著書『Symmetry』で定義した方法である。「ある物がシンメトリーを備えている(釣り合いが取れている)とはどういうことか。あなたが、ある物に対して何かをしたとしよう。それをし終わった後、それは前と同じように見える。それが、シンメトリーがあるということだ」。このワイルの定義が何を意味しているかというと、シンメトリーとは、秩序を生み出し、組織を形作り、それを機能させる動的な属性だ、ということである。そしてこれは、マネージャーの世界にも直結する発想なのだ。

階層的な組織図を作成するとき、私たちは無意識のうちにある種の直観的なシンメトリー、すなわちフラクタルを達成しようと試みている。フラクタルという用語は、1975年にフランスの数学者ブノア・マンデロブロ(Benoit Mandelbrot)が導入した概念である。マンデロブロは、当時、ニューヨークのIBMトーマスJ.ワトソン研究所で活動しており、数学を経済、金融、情報技術の問題に応用していた。フラクタルは、「自然の指紋」として知られており、特殊なタイプのシンメトリーである。これは相互に入れ子になった反復パターンであり、異なる倍率で同一の形状を維持し続けるために、構造全体がそれと同一構造の縮小形から成り立つものである。マネージャーが理解すべき最も重要なポイントは、フラクタルは自然界に生起する現象であり、極度に単純な規則から生まれている、ということである。そのような規則がお互いにフィードバックし合うとき、美しく組織化された極めて複雑なデザインを生み出すのだ。
マネージャーにとって、その意味合いは重要だ。たとえば、多くの大規模企業は、高い長期欠勤率という問題に厳罰主義で対処しようとしている。一部の企業などは、社員を見張るために「欠勤者コーディネーター」まで採用している。つまり、厳重に取り締まれば社員はきちんと出勤するだろう、と信じているわけだ。トヨタ自動車は、1983年にゼネラルモーターズ(GM)と提携して、閉鎖した工場を再開したとき、これとは正反対のアプローチをとった。その工場は、閉鎖前、20%もの長期欠勤者に苦しんでおり、当時のGMの工場すべての中で品質と生産性は最低レベルであった。同じ労働組合の従業員を引き継いだトヨタは、その工場の文化にトヨタの哲学の真髄を成す2つの重要な取り決めを、絶対に譲れない約束事として取り入れた。それは、「他者の尊重」と「継続的改善」である。従業員は自分自身の仕事を管理する責任を委ねられ、そうした理想を各自のやり方で解釈することが奨励された。その結果、2年も経たないうちに欠勤者は3%まで減少し、品質と生産性は記録的な高さまで向上した。5,000件も記録されていた労働協約に対する労働組合の苦情は、15,000件を超える従業員主導の改善提案へと姿を変えたのである。

誘惑: 情報の制限は好奇心を生み出す

意味ありげな暗示の力は、完全な情報開示の力より強いことが多い。何かを想像に任せ、解釈の余地を残しておくと、抵抗しがたい神秘のオーラが生み出され、誰もが答えを見つけ出したいという衝動に駆られる。誘惑とは、未知のものの中にある。自分が知らないことの魅力はすでに知っていることをはるかに凌ぐのであり、私たちは自然に好奇心を抱くようになる。未知のことに容易に引き込まれるのは、正にそれが未知であるがゆえである。目の前に存在しないものが、好奇心の満足に向かって私たちを駆り立て、好奇心を満たすために足りないと思う情報を自分から埋めるように仕向けるのだ。
Appleの独創的なiPhone戦略はその好例である。発表に至るまでの数ヶ月間に、iPhoneは大評判となり、これまで市場に登場したあらゆる製品の中で最も大々的に宣伝された製品の1つであると騒がれた。しかし、普通、大々的な宣伝とは、さまざまな販売戦略やメディア戦略を通じて商品を派手に売り込むことを意味するが、Appleが実行した方法は、完全に正反対だった。

多数のチャネルを動員した何億ドルものキャンペーンといったものは全くといってよいほど存在しなかった。突き詰めれば、唯一の宣伝と言えるものは、2007年のMacWorldにおけるSteve Jobsのシンプルなデモンストレーションのみであった。製品の簡潔なデザインと同じくらい、その販売戦略も簡素なものだった。つまり、1回発表しただけで、あとは何もしなかったのである。ようやくiPhoneが売り出されるまでの間に2,000万人の米国人が自分も購入したいと言い出していた。価格も、すぐに手に入るかどうかも分からないのに、である。

引き算: 制約と除外が価値を生み出す。
神経科学者たちは、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を使用して脳の活動を研究し、引き算にかかわる活動が、脳の中で加算を司る部位とは完全に異なる部位で生じていることを発見した。実際、引き算はまったく異なる思考方法なのだ。だが、マネージャーは、次のような質問に対して回答を考えてみれば、明らかに何か益になることがあるはずだ。
当社の顧客は、私が何を無くしたり、減らしたり、追加するのを止めれば、一番喜ぶだろうか? 当社がやるのを止めると、競合企業が一番嫌がることは何だろうか? 私が最も高く評価する人々は、私が何を実行するのを止めれば一番喜んでくれるだろうか?

もちろん、引き算に関する秘訣は、何を無くすべきか、厳密に言ってそれにどのように取り掛かるべきかを理解することにある。だが、その議論はまったく別のテーマである。


※Matthew E. Mayは、『In Pursuit of Elegance: Why the Best Ideas Have Something Missing』(Broadway Business、2009年)の著者であり、また、『The Elegant Solution: Toyota's Formula for Mastering Innovation』(Free Press、2006年)は、批評家から絶賛されて、Shingo Research Prize for Excellenceを受賞している。講演者としても著名なMayは、全世界の企業、政府機関、大学で講義を行っているほか、世界トップクラスの多数のFORTUNE企業で創造的なチームや経験豊富なリーダーとも協力している。