"安全志向"のリーダーと"真"のリーダー

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By Graham Jones, Ph.D. ----AMA抄訳

世界が地球規模の経済崩壊から、願わくば抜け出そうする中で、「ニューノーマル」(新たな標準)について多くが語られているが、この「ニューノーマル」とは実際どのような意味なのだろうか?


オリンピックや世界選手権出場レベルのスポーツ選手の相談役を務めるスポーツ心理学者として、私は、選手たちがスポーツの世界につきものの不確実性や予測不能性、そして強いプレッシャーに対処できるようにサポートし、これにほとんどの時間を費やしている。こうした選手を相手にした仕事から、私は3つのルールを見つけ出した。これを「行動(Acting)、注力(Focusing)、思考(Thinking)の3つの重要なルール」という意味で、CRAFT(Critical Rules of Acting, Focusing and Thinking)と呼ぶことにする。以下にその要点を示そう。この3つのルールは、選手たちがときに敵対的な環境の中で身を処しながら、優れた成績を持続可能な形で達成していくことに大きく役立っている。

  • CRAFT 1 ― 本当に重要なことに集中する
  • CRAFT 2 ― 何ごとも当然のことであると思わない
  • CRAFT 3 ― プレッシャーを好きになる
  • こうしたトップ・アスリートたちから私たち誰もが学ぶことができるのであり、商業組織でコンサルティングを行った私の経験からも、「ニューノーマル」のビジネス世界で活動する企業にとって、この3つのCRAFTがとりわけ重要になっていると言える。

    本稿では、「ニューノーマル」が、リーダーとリーダーシップにとって何を意味するかを検討する。そして、真のリーダーと安全志向のリーダーを分別し、3つのCRAFTが今の時代に必要とされる真のリーダーシップをどのように支えるのかを示そう。

    「ニューノーマル」は安全第一で行動するリーダーを受け入れない

    INGのCEO、Arkadi Kuhlmannは、こうした事情を正しく理解していた。それは、「今日の企業にとっての課題は、慎重に構え、姿勢を低く維持し、無難に振舞おうとする衝動を避けることだ」という発言から明らかであろう(MWorld、2009年冬号、8ページ)。しかし、実際に、安全地帯から踏み出し、闘志を胸に、戦いのリングに上ろうとしているリーダーがどれだけいるだろうか? 現在の経済苦境によって、ほとんどのリーダーはコーナーに追い込まれてしまい、そこで数字ばかりに目を向けることを強いられている。しかし、これでは単に、安全第一で行動することの都合の良い言い訳に過ぎないのではないだろうか。 私が安全志向のリーダーと呼ぶ人々が優勢な組織では、残念ながらその答えは「イエス」だ。そうしたリーダーたちは、現状を永続させ、それによって進歩と革新を妨げているリーダーである。その最大の動機は、役職の確保であり、「君子危うきに近寄らず」と言うべきものである。リーダーの助けとなる3つのCRAFTを忠実に守るどころか、その視線は、もっぱら自分の意思決定、行動、リスクの中に既得の地位を脅かす落とし穴がないかどうかを探ることに集中している。そのようなリーダーは不測の事態が生じると不意を突かれる。だから、その行動は状況に完全に左右され、いつまでも火消しに追われることになる。また、安全志向のリーダーは、プレッシャーに晒されるのを嫌う。それは雇用契約に含まれていないからだ。しかし、「ニューノーマル」の世界に、そうした安全志向のリーダーが逃げ隠れできる場所は存在しない。いずれは、そのありのままの姿が暴露される運命にある。


    「ニューノーマル」は真のリーダーを必要とする

    真のリーダーは安全志向のリーダーとは非常に大きく異なる。真のリーダーとは、自分自身の利益を守ることより、組織にとって、またその組織の構成員にとって正しいことを実行しよう、という動機の方がはるかに強いリーダーのことである。そして、3つのCRAFTすべてに非常に秀でている。

    CRAFT 1: 本当に重要なことに集中する

    「ニューノーマル」が求める真のリーダーは、競争優位を獲得するチャンス、維持するためのあらゆるチャンスを見極め、活用することに注力する。そして、そのようなチャンスを見つようとするのであれば、単なる数字をはるかに超えたものに注目する必要がある。数字ではなく、本当に重要なことに集中しなければならないのだ。注力先として心地良いものや無難なこと、あるいはもともとコントロールできないようなことに気を逸らしてはいけない。さもないと、この不況の犠牲者となってしまう。
    真のリーダーなら、本当に重要なのは良い変化をもたらす"機会"であることを知っている。しかも、そのすべてが外部の市場の中に存在するとは限らない、ということもわかっている。そうした機会の一部は、リーダーの目と鼻の先にあるかもしれない。そう、目に入らないくらい近いところにである。 つまり、それは「ニューノーマル」に求められる対外的イノベーションを推進する、内部的な変革管理イニシアティブである。
    本当に重要なことに注力すること、そしてコントロールできないようなことすべてに気を散らさないようにすることで、真のリーダーは、自分の限られた能力の有効的な利用を心掛ける。そして、短期的な業績を上げながら組織の将来的な健全性も実現するという責任から生じるストレスと、上手に付き合っていくことができる。

    CRAFT 2: 何ごとも当然視しない

    「ニューノーマル」の時代に、当然視してよいことは何もない。真のリーダーは、部下の頑張りや忠誠心、仕事への積極性を当然のものと見なさないように特に注意している。リーダーとして、自分がどれだけ良い仕事をしても、必ず、不満を抱いてやる気を失う部下が現れることを知っている。だから、部下の意見に耳を傾け、心からの共感を示すことに時間とエネルギーを費やす。なぜなら、今は、そうすることがかつてないほど重要であることを知っているからだ。
    真のリーダーは、高業績の組織は絶えず変化していること、決して停滞することが許されないことを知っている。そして、「ニューノーマル」が進展し続ける中で、そのことがますます大きな要因となって、組織の成功と生き残りを左右するようになることを知っている。従業員の積極性の維持と向上を目指す内部変革を促す変化であれ、市場における競争優位の維持と獲得に必要な継続的イノベーションを促す変化であれ、真のリーダーは、変化によって常に市場での優位を維持し続けようと努める。このプロセスには、可能な限り多くの突発事に対応できるようにするためのWhat-Ifシナリオを考案することも含まれる。そのようなリーダーは、予想外の事態さえも予想し、それに備えるのである。

    CRAFT 3: プレッシャーを好きになる

    「ニューノーマル」の時代は、従来以上に目に見える業績が組織、チーム、個人から要求される。そうした要求をさらに厳しくしているのは、より少ないリソースでより多くの成果を達成することへの期待である。真のリーダーは、部下に対してベストを尽くすように求め、あらゆる自己満足を払拭しなければならない。とりわけ、リーダーは、全員に対して、各自の個人的な目標水準を高めるように要求しなければならない。その出発点は、まず自分自身である。リーダーは、自分が部下に期待する高い水準を、身をもって示すロールモデルとならなければならない。
    「ニューノーマル」が引き起こすプレッシャーは、適応力を要求するだけでなく、プレッシャーを「肥やし」にして成長する能力、さらにはプレッシャーを好きになる能力さえも要求する。単にプレッシャーを受け流すだけでは、「ニューノーマル」が要求する成果は生み出せない。真のリーダーは、精神的にタフである必要があり、それによって自分自身がプレッシャーを励みにして成長し、またその部下も同様に成長するための条件を作り出すことができなければならない。この強い精神力の一面は、自信を持つ能力、つまり、状況が著しく悪化し、不可避の挫折によってリーダーの内面的な強さが試される事態になっても、なお自分を信じ続ける能力である。リーダーが自分自身を信じていれば、プレッシャーを好きになることもはるかに容易になる。


    結論

    「ニューノーマル」は、真のリーダーシップを行使する勇気と強い願望を持つリーダーを必要としている。組織が、順境にあって繁栄し、逆境にあって生き残ろうとするならば、リーダーシップの3つのCRAFTを備えているリーダーを募集、採用し、昇進させなければならない。そのリーダーとは本当に重要なことを見極め、集中して取り組むことができるリーダーであり、何ごとも当然視せず、予測の事態に備える柔軟性と適応力を身に付けたリーダーであり、プレッシャーを好きになることができる(あるいは、好きになる方法を学ぶことができる)リーダーである。そのような資質を兼ね備えたリーダーを探し出せない組織は、現職のリーダーを教育し、能力を身に付けさせる方がよいだろう。手遅れにならないうちに。



    ※グラハム・ジョーンズ博士は、業績開発コンサルティング企業、Lane4 Management Group(本社: ニュージャージー州プリンストン)のディレクター。Thrive on Pressure: Lead and Succeed When Times Get Tough(McGraw-Hill刊、2010年8月)の著者。詳細については、同氏のウェブサイトとブログwww.sustainedhighperformance.comをご参照ください。Lane4の詳細については、www.lane4performancecomをご参照ください。
      ※M World の記事内容・コンセプトは、必ずしもAMAが提供する研修プログラムの内容とは必ずしも一致しません。