実行のオールスター企業

:戦略と実行のギャップを埋めることに成功した、5社の著名企業

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By Rick Lepsinger ----AMA抄訳

その昔(といっても、そう何年も前ではないが)、世の中は戦略の天下だった。リーダーたちは、どうすれば企業目標を最もうまく達成できるかを構想することに、際限もなく多くの時間を費やした。

かつては、経営幹部の注目も、コンサルタントやマネジメントの権威から(ありがたくも)頂戴するアドバイスの焦点も、圧倒的に戦略をめぐる議論に向けられていた。あらゆるタイプのエキスパートが、どのように戦略的プランニング・プロセスを導入し、どのようにあらゆる階層の従業員を戦略思考家に変貌させるべきかを嬉々として論じ合っていた。
当然ながら、リーダーたちはこうした戦略三昧すべてが実を結ぶものと思い込んでいた。ところが実際は、そのように見事に練り上げられたビジョンから生まれてくるはずの成果が実現されずに終わる組織が続出した。

端的に言えば、実行できなかったのである。

戦略が天下を取っていた時代は過ぎ、ビジネスの世界はその注力先を「実行」に移している。プランとイニシアティブの実行、そして一貫した成果の実現が新たな焦点にある。組織に実行能力がなければ、すべて無意味なのだ。徹底的に考え抜かれた堅牢無比な戦略も、最先端のビジネス・モデルも、業界を激変させるようなテクノロジーの発明も、組織に実行力がなければすべて、何の意味もなさなくなる。
トーマス・エジソンの有名な言葉に、「実行なきビジョンは単なる夢に過ぎない」というものがある。これは真実であり、無数のビジネス・リーダーのはかない夢が実証してきたように、自分が何をしたいのか、あるいは会社を3~5年以内にどのようにしたいのかを知ることだけでは、まだ道の半ばにも達していないのだ。
では、何が問題なのだろうか? 説得力のある明確なビジョンと現実的かつ実行可能な戦略を持て、とあれ程までに騒がれてきたにもかかわらず、なぜそれを実行できそうにないリーダーがいるのだろうか?
これは、私がさまざまな経営チームと一緒に仕事をする中で、長年にわたって問い続けてきた疑問である。すなわち、「なぜ多くの組織は、確かな戦略プランニング・プロセスを導入し、優れた知性と経験を備えたプロフェッショナルから構成されたチームであるにもかかわらず、依然として計画を遂行して成果を出すことに苦労し、その能力を確立できずにいるのか?」。
計画の立案と実行の間にギャップがあることは明らかであるように思えた。さらに、リーダーが実行能力を向上させる必要性について書かれた論考は数多く存在するが、このギャップを生み出す原因が何なのか、そしてなぜこのギャップが存在する組織と存在しない組織があるのかについては、わずかな情報しか見つけることができなかった。

そこで、私が経営する会社Onpoint Consultingは、プランとイニシアティブを効果的に実行するためには何が必要なのかについて、具体的な情報の収集に乗り出した。
私たちは、次の3つの疑問に答えを出すための調査を実施した。

  • 組織がビジョンと戦略を策定する能力と成果を達成する能力の間にギャップは存在するか?
  • 実行能力の高い組織と低い組織を区別するものは何か?
  • 組織が戦略と実行のギャップを解消して成果を達成する能力を高めるために、リーダーはどのような対策をとることができるか?

私たちの予想は、ビジョンと戦略を策定して周知させる組織の能力と、成果を実現する能力の間にギャップがある、と回答するリーダーがある程度の割合で存在する、というものだった。事例証拠からは、その数字はかなり大きくなることが示唆されていた。そして実際、私たちの疑念は裏付けられた。調査対象となった409人のリーダーのほぼ半数(49%)が、戦略と実行のギャップが組織内に存在すると考えていたのである。

しかし、本当に意外だったのは次の点である。すなわち、わずか36%のリーダーしか、「私は自分の組織が、戦略と実行の間のギャップを解消する能力があると確信している」という設問に「イエス」と回答しなかったことである。言い換えると、自分の組織に戦略と実行のギャップがあると指摘したリーダーのうち、64%という驚くほど高い割合が、それを解消できるという確信を欠いている、ということである。

さらに詳しい洞察を得るために、私たちは、調査回答者を4つのカテゴリーに分類した。

  • 信念型: 組織が計画を効果的に実行しており、戦略と実行のギャップに悩まされていないと確信している。
  • 懐疑型: ギャップの存在を認めており、しかもそれを解消できるという確信を欠いている。
  • 楽観型: ギャップの存在を認めたが、ギャップを解消できるという確信がある。
  • 曖昧型: 戦略と実行のギャップの存在を報告しなかったが、自分の組織が効果的な実行の能力を備えているという確信がないと回答した。

その結果、この調査に参加した回答者の42%だけが「信念型」であることが分かった。自分の組織がギャップを解消できると考えていないリーダーの比率の高さと考え合わせると、この調査結果から、戦略と実行の問題の重大さが浮かび上がる。

さて、この時点で、読者の皆さんはこう思っているかもしれない。「なるほど。では、もし私の会社が実行上の問題を抱えているとしよう。それに対して私たちに何ができるのだろうか? 実行を保証する秘訣はあるのだろうか? 組織が当初の目標を達成する能力を備えているという自信を従業員に植え付けるための秘訣はあるのだろうか?」と。
皆さんが多くのリーダーたちと同じであるなら、すでに戦略と実行に関する従来からの通念:意欲的なビジョンと現実的な戦略を伝達し、任務を遂行するスキルを備えた積極的かつ献身的な従業員を維持し、顧客を重視することで、成果の達成を図っていく、を受け入れているだろう。
なるほど確かに、優れた考えのように聞こえるが、あらゆる証拠に照らしてみると、この手法には何かが欠けている。
もちろん、こうした基本的な業務慣行は必要なものであり、適切でもある。ただ残念ながら、効果的な実行を保証するには不十分である。この調査に参加した組織の大半、戦略と実行のギャップに悩んでいる組織も、そうでない組織も、このような慣行はすでに導入しているのだ。
さて、ここで質問である。こうした基礎的要因が効果的な実行の前提条件であるとしたら、何が組織をその先へと前進させるのか? 何が最も優れた組織を後続の集団から引き離すのだろうか?

私たちは、最高レベルの業績を上げている組織とそれなりに効果的な実行能力を備えた組織とを区別する5つの要因があることを発見し、これを「5つのブリッジ(橋)」であると考えている。なぜならそれは、企業が戦略と実行の間を隔てる「ギャップ」を渡って行き来するのを助ける役割にあるからだ。

この「橋」が実際上どのようなものであるかを明らかにするため、以下に、実行能力が並外れて優れている数社の著名企業の事例を示そう。

実行のスーパースター:P&G  #1 変化を管理する能力

数年前、P&GはMr. CleanブランドのMagic Eraserという商品を大当たりさせた。なぜ、この事例が1つ目の橋に相当するかといえば、この商品の生み出され方にある。
P&Gは、さまざまな新製品を社内で開発してきた実績がある。Magic Eraserは、その製品開発モデルから脱却した商品だったのだ。ある社員が日本でその試作品を発見し、それを受けたP&Gは、製品開発を社内のアイデアだけに限定する姿勢を改め、これは、既存製品のライセンスを取得し、P&Gに固有の組織能力を活用してそれに付加価値を与える良い機会である、と考えた。 社外で開発されたアイデアを利用するというこのP&Gの計画が効を奏したのは、変化を受け入れるP&Gの社風と、何事もそつなく実行する能力のおかげであった。

実行のスーパースター:IBM  #2 実行を支える組織構造

今、IBMは「グローバルに統合された企業」へと変貌し始めている。その鍵を握るのは、IBMがこの戦略を最も適切に支える組織構造を導入した点にある。
従来IBMは、進出先の各国で本社組織のミニバージョンを設立してきた。しかし、結果的に見ると、それは不効率でコスト高であることが分かった。今IBMは、適切な人材が適切な価格で見つかれば、どこであれその場所に拠点を開設している。たとえば、インドのグローバルITサービス・デリバリ、中国のグローバル・サプライチェーン、そしてブラジルのグローバル金融バックオフィスである。また、IBMは、ビジネス・プロセスも再設計し、ソフトウェアで業務を自動化することにより、そうした活動を連携させることに役立てている。

実行のスーパースター:Google  #3 意思決定への社員参加

Googleの創業時、社員の全員参加は容易だった。なんといっても、社員がごく少数だったからである。しかし、社員数が数千人まで拡大した今、リーダーたちは、誰もが意見を言えるようにする方法を考案しなければならなくなった。草の根的なアイデアを逃さずキャッチする1つの方法は、エンジニアが少なくとも週に1日を自分自身の「ペット・プロジェクト」(個人的に暖めてきた構想)の仕事のために割くことができるようにすることである。また、Googleは、より小規模なチームを使用して新しい構想を開発している。ときには、1つのチームに3~4人しか割り当てないこともある。

実行のスーパースター:Costco  #4 リーダーの行動と会社の価値観/優先課題の一致

Costco(会員制の倉庫型卸売型小売チェーン)のCEO、James D. Sinegal氏は、組織の価値観/優先課題と一致した行動をとっているリーダーの最たる例であろう。Costcoは、非常な薄利で営業しているにもかかわらず、その会員料とコストに対するスパルタ並の管理を通して、堅実な収益を維持し続けている。このCEOの「有言実行」な態度は、少なくともCostcoの成功の一因となっているであろう。

超薄利の環境に置かれたストア・マネージャーは、些細な問題にまで執拗にこだわる必要がある。Sinegal氏は、倉庫店を訪問するたびに、そのような行動方針を常に身をもって示している。
ストア・マネージャーに対して、各部門の売上はどうであるか、商品を回転させるために何を実行しているか、そして個々の品目をどのように処理しているか、矢継ぎ早に質問するのだ。ほかにも、同氏のコスト抑制の姿勢を示す例は色々ある。同氏のオフィスは通りの向こう側にあるCostcoの駐車場を見渡す位置にあり、来客用に折り畳み式の椅子を用意している。自分の電話には自分で出るし、多くの出世した経営幹部のように側近に取り巻かれたりしていない。給料とボーナスは合計で450,000ドルである。今では、会社の価値観を日常的に実践し、組織の優先課題をあらゆる物事の中心にすえて行動する人が、誰かしら社内にいるようになった。

実行のスーパースター:Cisco  #5 企業規模の協調と連携

組織横断的な連携を実現するために、John Chambers氏の率いるCiscoは、報酬制度を改定した。目標の達成に対してだけでなく、どれだけ効果的に同僚と協力したかに対しても、報酬を支払うようにしたのである。
テクノロジーも、チームワークの推進に重要な役割を果たしてきた。Ciscoは、全社にわたって120か所にテレプレゼンス・センター(新しいハイエンドのテレビ会議システム)を設置したほか、ソーシャル・ネットワーキングを利用して、全世界の従業員を結び付けている。


今日、多くのリーダーは、考え抜かれた意欲的なビジョンと現実的な戦略が事業の成功に必要不可欠であることを理解している。そして、任務遂行に必要なスキルを備えた積極的な従業員、高品質の製品とサービス、そして顧客の声に耳を傾けることが必要であることも正しく認識している。それにもかかわらず、こうした中核的な成功要因が満たされていてさえも、多くの組織は依然として一貫した成果を上げることができていない。こうした要因は、もちろん非常に重要であっても、単なる前提条件に過ぎないことは明らかだ。

他の企業が上記のような「橋」を築いて維持することで戦略と実行のギャップを克服できているなら、皆さんの会社にそれができないはずはない。もちろん、一夜にしてそのギャップに橋を架けることはできないし、いったん完成しても、この橋は自分で自分を支えてはくれない。それでも、この「建設工事」に取り掛かることは、正しい方向への一歩なのである。

※Richard Lepsinger氏は、『Closing the Execution Gap: How Great Leaders and Their Companies Get Results』(Jossey-Bass/A Wiley Imprint)の著者である。また、OnPoint Consultingの社長も務めている。リーダーシップに関する共著書として、『Flexible Leadership: Creating Value by Balancing Multiple Challenges and Choices』、『The Art and Science of 360° Feedback』、『The Art and Science of Competency Models: Pinpointing Critical Success Factors in Organizations』、および『Virtual Team Success: A Practical Guide for Working and Leading from a Distance』の4冊がある。詳細については、www.onpointconsultingllc.comをご覧いただきたい。
※M World は、米国AMAが四半期毎に発行する機関誌です。
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