ピーター・ドラッカーからの手紙 (最終回)

ドラッカーを通して、上司を通して学んだこと

前回の内容を読むにはこちら

 

いま日本で『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの“マネジメント”を読んだら』がベストセラーになっています。ドラッカー人気の再来を感じます。

ドラッカーはアメリカのクレアモント大学院にある、エグゼクティブ向けの博士課程で教鞭をとっていました。授業では、教室じゅうに絶えず緊張がみなぎっていた一方、教室での彼は「この上なく謙虚で人間味にあふれていた」といわれています。講義の様子やドラッカーの肉声は『ドラッカー先生の授業』(ウィリアム・A・コーン著/講談社)に詳しく記されています(原著の”A Class with Drucker”は米国AMAの出版部門AMACOMから出版されたものです)(注1)
このエピソードを読んだ時、私も思い当たることがありました。それは、前回も書いた、AMA日本支社が開設した当時、ドラッカーと創始者が交わした手紙の中にみることができます。

日本支社開設時に作成された会社案内の冒頭に、ドラッカーからの言葉が印刷されています。この原文となる本人からのFaxが残っているのですが、そこにはメモ書きとして以下のようなメッセージが書かれているのです。

“(前略)It may be too long, if so cut it. It may be the wrong thing—if so, throw it away and send me a fax with a draft of what you need….(以下略)”
((本文が)長すぎるようであれば短くして構わない。期待する内容になっていないかもしれない――もしそうであれば、捨ててしまって構わない。そしてそちらが希望する内容をドラフトとして送ってほしい。)



当時の彼は83歳。多くの著名人が自分の書く言葉の一言ひとことにこだわる傾向がある中、ドラッカーほどの人物がこのようなメッセージを送ることに私は非常に驚きました。彼の謙虚さと相手に対する思いやり、そして優しさを強く感じたメッセージでした。

2003年 米国AMAが80周年を迎えたパーティでドラッカーから届けられたメッセージも書面で残っています。ドラッカー93歳の時のものです。

“(前略)This association goes back a very long way---(中略)I helped establish AMA EUROPE. Finally, while not actively involved, I was privileged to be around with Mr.Y who established the AMA in Japan“…((前略)AMAとは多くの想い出があります。(中略)AMAヨーロッパの立ち上げをお手伝いしました。そして最後は、AMA日本の開設に携わったY氏のお手伝いをするという名誉にも恵まれました。(後略))

 

ドラッカーの謙虚と人間味あふれた人柄に触れると、私には必ず思い出す人がいます。
それは現在の米国AMAのCEO エド・ライリーです。まさにエドも人間味あふれた温かい想いを持った私の上司であり、8年前にAMAのCEOに就任した時、ドラッカーと会って話をした経験があります。「それはそれは素晴らしい2時間半だった」その時のことを、エドが熱く語ってくれたことがあります。
創立85年という歴史の長さに縛られていたAMAは、「世界でもっとも“歴史”ある機関」から「世界でもっとも“重要”な機関」へ、エドの決意で方向転換しました。AMAは組織として「社会的価値」を提供することに重点を置き、その対象はもちろん「人」です。その根底には、ドラッカーと共通の考えが流れているのだと私は感じています。

 

私がエドとドラッカーに似た印象を受けるのはどうしてなのでしょうか?
それは、自分の果たすべき役割を二人ともよく理解していた(いる)からなのではないかと思います。時代がどんなに変化しようと、状況がどのように変わろうと、常に自己と向き合い「自分は何のためにあるのか」「自分の果たすべき役割は何か」、二人はこの問いを真摯に考え続けていた(いる)のではないでしょうか。だからこそ自らをよく知り、受け入れ、「自分の価値」を見つけていた(いる)のだと思います。

「自分の果たすべき役割」を見つけられることは簡単なことではありません。ただ、それを見つけられるかどうかで、人の生き方は大きく変わってきます。
エドやドラッカーのように「自分の果たすべき役割」をわかっている人は、自分以外の人にもその人にしか果たせない役割があることを理解し、尊重できるのだと思います。人に対する優しさや思いやり、そして時には謙遜かと受け取れる彼らの言動は結局、「自分の果たすべき役割」に起因しており、それは彼らが自らの存在を問い直す作業を出発点にしているものなのではないかと思うのです。ドラッカーがAMAに残した手紙の中の言葉も、エドの人間味あふれる温かさも、そこに原点があるように思います。

ドラッカーやエドから伝わってくる想いに、私は幸いにも触れることができました。そして、私も私なりの「自分の果たすべき役割」が明確になってきました。
今度は私も、新たに出会い、関わった人達に対して、その人にしかできないことを見つけてもらうための手助けをすることができたら・・・そう思っています。

 

ドラッカーの思想は、時代が変化しても不動のものです。時期が異なれば、また違った解釈になるでしょう。その時が来たら、またこのコラムでも取り上げてみたいと思います。

(注1)参考図書】

本コラムで紹介した原著です。

A Class with DRUCKER
筆者:William A. Cohen, Ph.D.
出版社:AMACOM
値段:$17.95

(注1)参考図書】

 

日本語翻訳書です。

ドラッカー先生の授業
筆者:William A. Cohen, Ph.D.
翻訳:有賀裕子
出版社:武田ランダムハウスジャパン
値段:1,995円

 

(野崎稚恵=文)

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PROFILE

福田俊夫

アメリカン マネジメント アソシエーション インターナショナル
在日代表

英国レディング大学留学を経て1991年株式会社マネジメントサービスセンター入社、グローバルプロジェクトチーム リーダーとして米国パートナー のディベロップメント ディメンションズ インターナショナル(DDI)と連携しグローバルアカウント企業を担当。
2002年アメリカン マネジメント アソシエーション インターナショナル入社。海外プロジェクトを担当。営業部長、副代表を歴任し、経営者および次世代リーダーのためのエグゼクティブコーチング、グローバルリーダー育成、女性ビジネスリーダー育成事業を立ち上げる。2007年より在日代表。